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25.祭りの当日、結果はいかに。

「昴一君、抽選券の予備ってどこだっけ?」

「あ、それならこっちです」


 見谷川祭り当日。午後五時。夕暮れ時。

 祭りが始まってからすでに五時間が経つ。


 瑞樹が作った見谷川祭り用の音楽をBGMを聞きながら、お客が思い思いのお店でお祭り気分を楽しんでいる。


「……有志のステージ発表もかなり盛り上がっているみたいだな」


 瑞樹が遠くから聞こえるマイクの声に反応していった。

 俺と瑞樹は、運営テントの中で祭りの案内係をしている。


「蓮が進行してるし大丈夫だろうけど、一応瑞樹も行ってきた方がいいんじゃねぇか?

 有志の中には瑞樹が呼んできた奴が多いし」

「そうだな。……だが、それだとの手が足りなくなる。かわりに小雨を呼んでこよう」

「おう、頼んだ」


 有志発表は俺たちが提案した企画の一つだし、見谷川祭り存続のためにもぜひとも成功してほしいな。


 芸をするのが一般人ってわかってれば、ハードルは下がるし、ちょっとした拙さがスパイスになったりもする。

 中途半端なアーティストや芸人を呼ぶよりはずっと面白いだろう。それこそ、商店街版の文化祭って感じでさ。


 懸念があるとすれば、有志発表のネタ切れが起こることだが、個人個人のツテや、この周辺の学校に張り紙を出したりしてかなりの人数を集めた。

 飛び込みもオーケーということにしたし、祭り終盤までネタ切れになることはないだろう。


「……………………」


 気が気でない。どうしてもそわそわしてしまう。


 人の入りは上々で、見谷川祭り存続のために課せられた目標もそこまで高いものじゃない。

 それでも、いつどんなハプニングがあるかわからない。

 まだ、ミヤの生存が確定したわけじゃない。気を抜いていられない。


「そんなに怖い顔して、どうしたんですか?」

「ん? 小雨か」

「はいっ、交代でお手伝いにきました」


 小雨が短く敬礼をすると、隣のパイプ椅子に座った。


「俺、そんなに怖い顔してたか?」

「え? はい、考え事してるときの顔でした」


 つまり、俺が考え事しているときは、常に怖い顔だと。今後、気をつけよう。


「まあ、考えごとっつーか、ちょっとした悩みだな。この見谷川祭りが成功するかどうかっつー」

「あー、そればっかりは結果を待つしかないですね」

「そうだな」


 頭ではわかっていても、急いてしまう気持ちはどうしても抑えられない。


 このままでいいのか? 接客は失礼ないように出来ているか? もっと客引きみたいなことをするべきじゃないのか? そんな思考が頭の中を巡って離れない。


「…………」「…………」


 俺と小雨は、比較的仲がいいと思っているし、話も合う。

 だが、それでも小雨が遠慮しているのか、俺が話を繋ぐのは下手なのか、二人きりになると話が途切れることが多い。


「今日で私と先輩が出会って一周年ですね」


 そんな状況を割ったのは小雨だった。


 たしかに、仲良くなったきっかけはこの見谷川祭りだ。

 それ以前も、客と店員として何度かで合っているはずだが、お互いを認識したのは一年前の今日に違いない。


「そうだな、もう1年かって感じもするけど。俺的には、たった一年かって感じの方がでかいな」

「そうですね。もっと昔から一緒にいた気がします。

 瑞樹先輩に関してはまだ話すようになってから半年ほどしか経っていないのに全然そんな感じがしないです」


 俺と蓮は、小雨が学校に入学する前からの付き合いがあったが、瑞樹と小雨が話すようになったのは、小雨が入学してからだ。


「ま、俺たちはいろんな意味で類友なんだよ。性格とか目標は全然違うけどさ」

「そうですね」


 小雨かクスッと笑った。


「…………」「…………」


 そして再び沈黙。意味もなく当たりを見渡したりして間をつぶす。


「ところで昴一先輩。かなり前の話になるんですが……」


 その沈黙を再び破ったのも、小雨だった。


「なんだ?」

「その、見谷川祭りの企画を発表する時、昴一先輩の言っていた『大切な人』って、誰ですか?」


 あまりの不意打ちだったため、一瞬で血圧が上がり、汗がにじみ出た。


「あ、こ、答えたくないなら答えなくてもいいですよ!

 でも、その、彼女さんか誰かかなぁと、思いまして。す、すみません」


 俺の反応を見て、小雨がわかりやすくうろたえた。


「い、いや。彼女じゃ、ねぇよ」

「そうなんですかっ!?」


 小雨の表情がたちまち明るくなった。


「と、いうより、女性の方ですか? 男性の方ですか?」

「女だ」


 神様に性別があるかどうかは知らないが、見た目と中身は間違いなく女だ。


「そ、そうですか」


 小雨の表情に、僅かながらの影が差す。


「俺とあいつの関係はよくわかんねぇんだよ……。

 なんつーか、友達とか、家族とか、恋人とか、そんなんじゃなくて、それこそ『大切な人』って感じだ」

「そう、ですか。なんだか難しいですね」


 小雨に落ちる影がさらに少しだけ強くなった気がした。


「あ、昴一君。いたいた」

「会長?」


 小走りでやってきたのは、肉屋の松村さんだ。同時にこの商店街の会長でもある。


「会合の部屋に常駐してるんじゃなかったんですか?」

「そうだけど、キミにいち早く伝えたいことがあってね」


 会長はニコニコと笑みを浮かべている。もしかして……。


「もう、この時点で今回の見谷川祭りの目標に届いたよ」


 あまりに突然で、一瞬言葉の意味が飲み込めず、一瞬固まった。

 徐々に言葉の意味を理解し、口元がほころびてくる。


「本当、ですか?」


 やばい、泣きそうだ。


「うん、こんな嘘はつかないよ。まだお祭りの時間の半分くらいしか経ってないけど、お祭りの売り上げは去年のものを大幅に超えてる。それに……」


 会長は商店街を一望した。


「これだけの人が集まって、盛り上がってくれているんだ。売り上げ目標を抜きにしても、商店街としては今年で辞める手はないね」


 そして、会長は温かい笑みでこう付け足した。


「大げさにいえば、商店街にとって、君たち4人は救世主になったのさ」

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