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23.合否発表、一気に前日。

「それでは、発表します」


 プレゼンが終わった日の翌日。


 朝、いつも通り立川画材店の前にいつもの4人が集合していた。普段なら、集まってすぐに学校に向かって歩き出すのだが、この日ばかりはみんなが足を止めて、小雨の言葉に耳を傾けている。

 そう、俺たちの提案にについて、合否が発表されるのだ。


「『期間や経費的に無理な部分もありましたがそれ以上に魅力的でした。一緒に見谷川祭りを作っていってほしい』とのことです」


 それが、小雨から告げられた商店街側からの答えだった。これって……。


「大成功ってことでいいよな?」


 普段通りでいようと思っても、嬉しさに顔がほころびる。


「もっちろん。とはいっても、大成功って言っていいのは見谷川祭りが終わってからだけどね。とりあえず最初にして最大の関門クリアってところかな?」

「なんにせよ。努力が実ったということだろう」

「反対する人は一人もいなかったです!」  


「それで、今回で売り上げが伸びたり販促効果があったら、見谷川祭りは来年以降も続くんだよな?」

「はいっ。まだ、具体的な目標は決まっていませんが、見谷川祭り継続についてもみんな前向きでした。

 もともと、見谷川祭りが終わるのは悲しいって人も多かったですし、少しでも商店街に来る人を増やせれば、継続の可能性は高いと思いますっ」


 よしっ! 声には出さなかったが、小さくガッツポーズをした。

 ミヤを救うための大きな大きな一歩を踏み出すことができたんだ。




 そして、決まってからは早かった。


 毎日のようにメールで商店街の会長とやり取りして、毎週行われる会合にも参加して、俺たちの提案した見谷川祭りの無理を省き、みんなで意見を出し合って発展させ、少しずつ着実に完成させていった。


 小雨の漫画調のイラストも、最初は俺のつたない絵を見せるのは恥ずかしかったがなんとか協力して完成させ、チラシとして配ることができ、子供たちにも概ね好評だった。


 準備期間が短かったから、妥協せざる終えない部分もあったが、それでも満足いく仕上がりになったと思う。

 自分で言うのもなんだが、祭りの内容はもちろん、広告のクオリティも去年までとは段違いだ。


 成功する。絶対に、成功させる……!




「早いもんだな。まだ準備期間一ヵ月以上あるって思ってたら、もう明日だ」


 見谷川祭り前日である今日は、商店街をいつもより早く閉めて、商店街の人総出で見谷川祭りの飾り付けをしていた。

 どうせ関わるなら飾り付けも豪華にしたいと、少ない時間と予算を割いて、10年以上使い回されてきたパーツを洗ったり、新しく素材を作り直したりもした。

 もともとかつかつのスケジュールだったのに、こんな忙しくなる提案して後悔もしたが、無事完成させることができた今としては、それもいい思い出だ。


「そうだな。……なんとか間に合って、よかった」

「ああ、つーか、瑞樹がここまで協力してくれるとは思ってなかったな。正直な話」


 瑞樹はもともと他人に積極的に関わる性格ではないし、面倒ごとも極力引き受けたりしない。

 どちらかというと、他人と少し距離を置いて、必要最低限の消費でのらりくらりと生きていくタイプだ。


 そんな瑞樹が、曲をきっちり期間内に作り上げ、会合にも毎回顔を出し、見谷川祭りで行うステージの有志まで集めてくれた。

 それに時たまボソリという言葉は核心を突いていたり、状況を打開できるアイディアだったりして、見谷川祭りのクオリティを大きく上げてくれた。


「ヒドいな……オレだって頑張るべきときはわかっているつもりだ。オレがサボったりすると、皆の信用や士気に関わるだろう……?」


 見谷川祭りへ関心が薄いのに、どうしてそこまで協力してくれるのかと思ったら、俺たちのためだったのか。


 いつぞやバイトで言った『オレは友達がいない』ってのは、やはり嘘だな。

 これだけ人を思える奴に友達がいないわけがない。

 つーか、俺はずっと前から友達のつもりだったし。

 それに、瑞樹の一声でかなりの有志が集まった。きっとそいつらも瑞樹の友達なんだろう。


「ま、瑞樹がいつもより協力的だったのは事実だねぇ」

「……そんなこと言うなら、もう協力しないぞ」


 蓮が茶化すように言ったら、瑞樹が拗ねたように答えた。


「褒め言葉だよ褒め言葉。それにいい経験できたじゃん。デザインできて、マーケティングに触れられて、思い出まで作れて、ホント誘ってくれた昴一には感謝してもしきれないね」

「いや、感謝するのは俺の方だっつーの」


 プレゼンの時にもし蓮がいなかったら……なんて思うと、ゾッとする。


 あれだけの人前に立ってあそこまで流暢に話すなんて、俺にも小雨にも瑞樹にもできない。

 それができるのは、全国の高校生で見てもほんの一握りしかいないだろう。


 それに本気でイベントプランナーを目指しているだけあって、スケジュール管理やプログラム構成も正確で、蓮がいなかったらそもそも『わたしたちの見谷川祭り』は成り立たなかったかもしれない。


「そうかもしれないね」


 蓮がクスリと笑った。


「謙遜しねーのかよ。事実だからいいけど」

「もちろん、わたしが感謝してるのも事実だよ。お互いがお互いに感謝し合うのってなんかいいじゃん」


 そして、蓮の一番凄いところはこれだ。


 気遣い、心配り、人と人との緩衝剤になれる力、商店街と俺たちの間を取り持ってくれたのは小雨だが、商店街と俺たちを繋いだのは蓮だと思う。

 失礼がないように、お互い遠慮なく意見が言えるように、皆の間に自ら入っていった。

 それだけ特殊な立ち位置に立っているのに、壁っつーか妙な距離を感じないのがよけいに凄い。


「お互いに感謝し合う関係ですか。いいですね、そうゆうの」

「でしょ?」

「私も昴一先輩には感謝してます。

 昴一先輩のおかげで、見谷川祭りを続けることができるんですから。それに、単純に楽しかったですし……」


 確かに、神様を救うことを抜きにしても、この見谷川祭りの準備はやりがいのあることだったし、楽しかった。


「あれー? 昴一先輩って、わたしたちには感謝していないのかな?」


 蓮がいたずらっぽく笑った。


「も、もちろん皆さんに感謝してます!」


 小雨があわてて訂正する。


 小雨は俺たちが見谷川祭りに関わる前も関わった今も、少し抜けていて少し頼りない感じだが、そのまじめさには助けられた。

 商店街とのパイプを活かし俺たちを繋いでくれたり、俺が決めた期限までに絵を完成させたり、商店街の新飾り付けの原案を出してくれたのも小雨だ。


 毎日画塾や店番と忙しいだろうによく頑張ってくれた。

 それに、俺のつたない絵を形にしてくれた。


「本当に、もう明日まで来てるんだな」


 最初は、それこそ雲を掴むような話だった。

 『やってやる』と宣言しつつもどこかで不可能だと思っていた。

 だけど少しずつ少しずつ手探りで進んで、小雨に、蓮に、瑞樹に、商店街の皆に、協力してもらってその実体を掴むことができた。


 俺一人では絶対にここまでのことは成せなかった。

 だから、少し気恥ずかしいけど、これだけ言っておこう。


「みんな、本当に、ありがとう」

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