22.成功の喜び、二人の名前。
『大成功だったね!』
「おう!」
プレゼンテーション終了後、商店街でみんなと別れ、その足でいつもの神社へと向かった。
実は、プレゼンの現場まで神様を連れていってたんだ。
会合が行われるのは商店街の中、神様は俺の側から離れなきゃ商店街の中までなら行動することができる。
プレゼンの前に神様迎えに行き、連れて来たってわけだ。
『ところで、キミがあの時言っていた、大切な人ってもしかして私のこと?』
つまりはあの小っ恥ずかしい演説も全て神様に聞かれている。
「あ、ああ。一応はそのつもりだ」
『そっかー。ふふふっ』
神様が上機嫌そうに上昇する。
『そういえばキミ、昴一って名前だったんだね?』
「ん?」
一瞬、神様の言葉の意図が読めなくて、首を傾げた。が、すぐに気がついた。
「もしかして俺、名乗ってなかった?」
『そうだよ?』
「マジか、気になってたんなら聞いてくれりゃ良かったのに」
『意図的に隠してるのかなぁっと、思って』
「んなわけあるか」
『あたっ』
神様の額を小突いた、重量感なく浮いているだけあって、大げさに仰け反る。
『ねぇ、これからはキミのこと、名前で呼んでいいかな?』
「もちろんいいぞ」
『やった』
それだけで喜んでもらえるとは。
『…………』
「……ん? どうした?」
神様は照れくさそうに、いわゆるもじもじしていた。
『その、もし良かったら私のことも名前で呼んでほしいなぁって』
「もちろんいいぞ」
女子のことを名前で呼ぶのは、小雨と蓮で十分慣れているので、あまり抵抗はない。
ちなみに、俺たちが下の名前で呼び合うのは、仲良くなってから徐々に変化したとかではなくて、仲良くなり初めの頃、蓮の提案で呼び方を揃えることにしたからだ。
「そんで、名前なんて言うんだ?」
『ああっ。やっぱり忘れられてた!? 最初に名乗ったよ!』
「マジか!? す、すまん。忘れた。もう一回教えてくれ」
記憶をたどるがやはり思い出せない。
『私の名前は見谷神だよっ』
その単語を聞いた瞬間、記憶がよみがえる。
そういやそんなこと言っていたな。
あれ、名前だったのか、いや、名前以外ならなんだってんだよって話だが。
「……なんか厳かな名前だな」
『でも本名だよ?』
俺が昴一って呼ばれて、俺が見谷神って呼ぶ関係はなんだかフェアじゃない気がする。
これだけ親しくなれたのに、人間と神様の関係に逆戻りするようでなんかいやだ。
「あー、そうだな。じゃあ、縮めて『ミヤ』って呼んでいいか?」
『ミヤ? ミヤ、ミヤかぁ……』
「ダメか?」
相手は仮にも神様だし、名前とかにこだわりがあるのかもしれない。
実際、俺がわざと名前を伏せているとか、そういった勘違いをするくらいだしな。
『ううん! それってあだ名だよね? 嬉しい、それで呼んでっ』
「おう。そうだ、俺だけあだ名で呼ぶのもアレだしな、俺のことも縮めて『コウ』って呼んでくれ」
それは、中学生までの間、地元の友達に呼ばれていた俺のあだ名だ。
『うんっ。これからもよろしくね。コウ』
「ああ、こちらこそよろしく。ミヤ」
ミヤがニコニコと笑う。
ホント、人なつこい笑顔だ。
『やっぱり名前呼んでもらうって嬉しいね』
ミヤの些細な言葉は、いちいち胸にちくりと刺さる。
最近それが影を潜めつつあったが、ミヤにとってはどんなことでも初めてなんだ。
『名前を呼ばれる』そんなことですら、ミヤにとっては特別なんだ。
「これからもずっと呼んでやるよ。祭りが始まるまでも、終わったあとも」
少々役者がかった恥ずかしい台詞だが、このミヤの前ではこのくらいがちょうどいい。
『……うん』
ミヤの表情に少しだけ影が差す。
このタイミングでそんな表情をされると嫌な想像をしてしまう。
まだ、ミヤが消えるっていう未来を変えられていない、なんていう結末を……。
だけどその先は、聞かなかった。怖くて、聞けなかった。
でも、何となくわかっているんだ。
見谷川祭りに失敗したら、当然ミヤとの別れがくる。
もし、成功したとしても、俺とミヤは、人と神様だ。
ずっとこのままでいられるはずがない。
別れの時が、少しずつ、確実に、近づいている。




