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21.とうとう提案、昂一の演説。

「さーて、いよいよ本番だねぇ」

「ああ」


 小雨が日程通りに絵を完成させてくれて、俺も少々寝る時間を削ったがチラシを完成させることができた。

 瑞樹の音楽は先週の木曜日に完成していたし、蓮がスケジュールを破るわけがない。


 つまり予定通り、2回目に集まった日から十一日後の今日、俺たちは商店街に見谷川祭りの新企画を提案する。


「基本的にわたしが喋るから、小雨と昴一は商店街の人から直に質問されたときだけ答えてね」

「わかった」「了解です」


 そういえば、以前バイト先で蓮と話した時、俺に重要な役割があるとか言ってた気がするがいまだ何も聞いていない。なくなったのだろうか?


「瑞樹はパソコンの操作よろしく」

「……ああ」

「じゃ、行こっか」


 蓮が引き戸に手をかける、いつも商店街の会合が行われている部屋の扉の戸だ。


 この中には商店街の会長と、俺たちの提案を聞きたくて集まった人がすでに座っているらしい。

 プレゼン用のパソコンやプロジェクターはすでにセッティングしてあるので、入った瞬間からプレゼンが始まる。一挙一動慎重に取り組まなければいけない。


 蓮が音を立てないようにゆっくりと引き戸を開ける。同時に大量の視線を感じた。


 それもそのはず、部屋の中には20人を超える人がいて、その全員がこちらに注目していたからだ。

 会長である肉屋の松村さんはもちろん小雨の母親や古着屋や総菜屋……。見知った顔もそれなりにいた。


 つーか、ここにいる人数と商店街の規模から考えて……。


「ほぼ全店舗から、人がきてるんじゃねぇか……?」

「人は多い方がいいよ、そっちの方がたくさんの意見を聞けるしね」


 蓮が、俺たちにしか聞こえないくらいの音量で呟くと、みんなをプロジェクターの前へと誘導した。

 瑞樹はパソコンの前に座り、俺たちは蓮の横に並ぶ。


「商店街のみなさまはじめまして、本日はわたし達に見谷川祭りへの企画を、提案する機会を与えてくださりありがとうございます。

 わたしは蓮、こちらでパソコンを操作しているのが瑞樹、そして昴一と、小雨です。


 すでに知っている方もいると思いますが、わたしたちは見谷川高校のデザイン科に通っていまして、見谷川祭りは、クラスメイトとの仲を深めるきっかけになった思い出深い祭りです。わたしたちとしても――」


 蓮が流暢に話す。原稿は頭に入っているのか、それとも要点だけ覚えてあとはアドリブなのかわからないが、カンペなしで喋っている。


 緊張すると早口になりがちだが、そうなることはなく、丁寧にゆっくりと提案の内容を話していく。


 やがて話は、前置きから本題に移り、これまでの見谷川祭りに対する疑問の提示、前もってコピーしておいた資料と合わせて宣伝方法の提案、改善したプログラムの表などを説明していく。


 10日間全力で作った資料はおおよそ20分程度で読み終え、プレゼンが終了した。


「これで、わたしたちのプレゼンテーションを終わらせていただきます。

 最後までお聞きくださりありがとうございました」


「……………………」


 商店街の人たちの反応は薄い。


 蓮のプレゼンは完璧だったし、俺と小雨で作ったチラシや瑞樹の曲も悪くなかったはずだ。

 詰めが甘くて悪印象を与えてしまったとは思いたくない。


 むしろ、プレゼンが綺麗にまとまり過ぎていて、そういったことに慣れていない商店街の人たちが、上手く反応できず空気が淀んでいるように思えた。

 どうするんだ蓮。


「さて、こちらも次々に提案させていただいたので、いろいろ質問や疑問があると思いますがその前に、こちらにいる昴一に代表で、わたしたちの見谷川祭りに対する意気込みを言ってもらおうと思います」

「え!?」


 思わず聞き返してしまった。

 俺の反応を見て、商店街の人たちが何人かが笑った。


 もしかして、当日にある俺の役割ってこれのことか!?


「そもそも、最初に見谷川祭りを今年で終わらせたくないと行動したのは彼でして、わたしたちの中でも、見谷川祭りにひときわ強い気持ちを持っています。

 彼のリードがなければわたしたちはこの場に立っていなかったでしょう。この提案が『わたしたちの提案』であるなら、彼の声で締めくくるべきだと、わたしは思います」


 戸惑っている間にも、どんどんハードルを上げてくる。


「それじゃ、昴一。みんなに聞こえる声で言ってね?」


 最後の最後で友達言葉を使い、俺にバトンを押し付けてきた。


 『聞いてないぞ』と、目で訴えると。『言ってないよ』という笑顔で返された。


 静まる空気。だだをこねたところで、お茶を濁せなさそうな雰囲気。


 商店街の人たちの視線が俺に集まる。

 小雨と瑞樹は知っていたのかやたら落ち着いていた。


 もう、やるしかない。


「俺は……」


 話すことは一切まとまっていないが、沈黙に堪え兼ねて話し始める。


「もともと、物事の中心に立って何かを企画したり、何かを提案したり、みんなを引っ張っていくようなタイプの人間じゃ、ないんです。

 もっと内向的で、どちらかというと、人についていくような……でも、俺はどうしても見谷川祭りを終わらせたくなくて、行動しました」


 思いついた言葉をなんとか繋ぎ、一つの文を組み上げ、伝わるよう願って口にする。


「なんで見谷川祭りを終わらせたくないかというと、さっき蓮が言ったみたいに、俺自身にとって思い入れのある祭りだからって理由もあります。

 でも、何よりデカい理由は、俺の大切な人が見谷川祭りが終わると、その……悲しむというか、そいつも見谷川祭りのことが大好きで祭りがなくなると悲しい思いをするからです」

「……悲しいって、二回言ったな」


 瑞樹がぼそりと呟いた。ほっとけ。

 緊張していて声が震えてるし、支離滅裂だし、ときどき噛むし、早口にもなる。蓮のように上手くいかない。


「それくらい俺にとって、見谷川祭りの存続は大切なことなんです。


 大切な人を悲しませたくないし、蓮とまた祭りにきたい。

 今度は小雨と一緒に祭りを見て回りたいし、次は瑞樹も一緒に楽しんで欲しい。


 今年も、来年も。だからこのまま終わってほしくない、終わらせてほしくない。……そんな、かんじです」


 一瞬の沈黙。


 直後、蓮がゆっくり拍手をした。

 それに釣られるように小雨と瑞樹が拍手をし、商店街の人たちにも伝わっていく。


 拍手はやがて大きなものとなり、会合部屋が拍手に包まれる。

 商店街のみんなが、俺を、俺たちを受け入れてくれたような気がした。


「ごくろうさん。大役押し付けてごめんね?」


 割れんばかりの拍手の中、蓮が耳元で呟いた。


「まったくだ」


 改めて言葉にするのは恥ずかしかった、神様のことも口にしかかった。

 が、俺のつたない演説が入ったことで、商店街の人たちの表情が和らいだ気がする。距離もぐっと近くなってる。

 ここまで見越して俺に喋らせたのか、さすが過ぎる。


「それでは、今回の提案に質問や疑問がある方は手を挙げてください。手を挙げるのが恥ずかしい方は口々に言ってくださっても構いません」


 次々に手が挙がり、好きなように発言し、多少収拾がつかない感じにもなりつつ、充実した意見交換ができた。


 このあと、小雨を含めた商店街のみんなで話し合って、俺たちの提案を受け入れるか否かを決めるらしいが、会長も前向きに検討するって言ってくれてるし、何よりこの雰囲気を見れば絶対に通ると確信が持てた。

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