16.進捗報告、瑞樹の音楽。
本日木曜日。
小雨に依頼を出してから四日後の昼休み。
俺達四人で見谷川祭りに企画を提案すると決めてからも、各々で制作には取りかかっていることを除けば、あまり変わったことなく学園ライフを送っている。
「最近どう?」
蓮が突然つぶやいた。
昼休みの食事中、話をふるのは大抵蓮だ。
小雨と俺はたまに話を持ち出す程度。瑞樹に関しては自分から喋りだすことは滅多に無い。
そういう意味では、今日の蓮のつぶやきもいつも通りとも言えるが、この「最近どう?」は訳すると『見谷川祭りの準備が進んでいるか?』という意味であり、普段と異なる会話といえば、そうともいえる。
「俺は今のところ問題なくって感じだな」
「具体的にはどんな感じで進行してるの?」
「具体的に、か。アイディアまとまって小雨にイラスト任せたのが日曜日で、あとはイラストの完成が待つまでのあいだ素材作りと、文字ベースの広告作りをやってるな」
「文字ベースの広告?」
蓮の目つきが少しだけ鋭くなった。
「あ、そういや言ってなかったな。ほら、商店街で配る用の広告はザ・子供向けのものだろ?」
「間違い探しを使うって言ってたね」
「そう、でもそれだけだと、新聞とか張り紙とか他の媒体での宣伝をしづらいと思ってな、凝ったイラストを使わない文字ベースの宣伝広告も平行して作ってんだよ」
「なるほど、確かにそうゆうのはあった方がいいね」
「だろ?」
「でも、作るなら報告してほしかったなぁ。ホウレンソウは大事だよ?」
「うっ」
報告・連絡・相談。これを怠ると、二度手間が起こったり、重大なミスに繋がったりする。
身内4人でやってるとはいえ、怠るのはよくなかったな
「す、すまねぇ。以後気をつける」
「よろしい」
蓮はにこりと笑った。本当に笑顔作るのうまいよな。
「ちなみに、進行具合は? 間に合いそう?」
「ああ、今のところ滞りなくいけてる、つーか文字広告の方は少々ダサいがもう出せる段階だ」
「こっから詰めてく感じだね?」
「そう、最終的には小雨から届いたイラストによって、いろいろ変えなきゃいけねぇだろうし絶対に安全とは言えないが」
蓮の視線が小雨に移る。
「小雨ちゃんは進行具合どう? 昴一が定めた期間までに出来そう?」
「は、はいっ。大丈夫です」
ん? 何で今ちょっと詰まったんだ?
「……ほんとに?」
蓮もそれが気になったようで、再び確認を取る。
「ほ、本当に大丈夫です! けして遅れているわけじゃないです!」
けして遅れているわけではない、か。何か含みがある物言いだな。
「そう、なら信じるよ」
だが、蓮はスルーして、そのまま瑞樹に視線を送る。
「瑞樹は? 進行具合聞いときたいんだけど」
瑞樹は今日も変わらずスマホゲームをプレイしている。
いつもみたいに、手は止めることなく、受け答えするのだろう。と、思ったら、珍しく手を止めイヤフォンを外した。
「実のところ、もう出来ている」
「え?」
衝撃の事実に、変な声がでた。
「……聞くか?」
そして、外したイヤフォンを差し出してくる。
「あー……」
蓮が呆れた表情を見せた。
「ん? どうした?」
瑞樹が不思議そうな顔をする。
いや、音楽をスマフォの中に入れていて、それを聞いてもらうためにイヤフォンを差し出しているのはまあわかる。
「えーっと、いつ完成したんだ?」
声も出ないといった感じの蓮に変わって、俺が喋る。
「昨日の晩だが」
いや『晩だが』じゃなくて。
「さすがに、完成したなら、聞かれなくても報告しようぜ」
今しがた、蓮に怒られた俺が言うのもなんだが、瑞樹はなんつーか、自分から会話作らないよな本当に。
「ま、まあ聞きましょうよっ」
小雨が間を取り持つ。
「じゃあまずは小雨ちゃんと昂一から聞いてよ、わたしは後でいいからさ」
「はい」「おう」
イヤフォンの右側を俺、左側を小雨がつけた。
瑞樹が音楽を再生する。軽快な音楽が流れてきた。
「ん?」
これは三味線の音? パーカッションの音もなにか違うような……。
「……和ロックってやつか?」
耳に飛び込んできたのは、和風の楽器で奏でられるロック調の音楽だ。
「ああ、祭りの感じと軽快さを演出しやすいと思ったからな。ループ再生も出来るようにしてある……これで良いようなら、もう祭りで使える」
「どれどれ」
蓮が俺からイヤフォンを取って、耳につけた。
「うん、これでいいんじゃないかな」
少しの間をあけて、蓮が言う。
俺も同意見で、瑞樹の音楽は文句なしにいい曲だった。
そもそも仮にダメだったとしても、俺達は音楽に詳しいわけではないので、まともなダメ出しは出来ないわけだが。
「んじゃまあ、瑞樹の音楽も無事できたことだし、昂一たちもがんばってねぇ」
「はい! がんばります」
「わかってるっつーの。わざわざ追い詰めるようなこというな」
そう言いつつも、蓮のプレッシャーのかけ方は絶妙だな、と思う。
「あ、音楽のデータもらえるか?」
「ああ、渡せるぞ。……昂一もスマホだったな。赤外線は……?」
「ねーわ。悪い。メール添付か、サイズがでかいなら学校のサーバーでも借りるか」
デザインを扱う学科とだけあって、それなりの容量のサーバーを有している。
もともとは、データ資料の配布や、グループワークのデータ共有ように購入したものらしいが、デザイン科の学籍番号とパスワードさえあれば自由に扱えるので、みんな私的理由で使ったりもする。
そのせいで、少し前にサーバーが落ちまくるなんて事件が発生したりもした。
「1ループはそこそこ長いが、サーバーを使うほどでもないだろう。メールで送ろう」
「おう、頼む」
そのまま、瑞樹からデータを受け取り、そのあとは特に目立った会話もなく、昼休みを終えた。