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14.昂一のアイディア、神様は遊ぶ。

 バイトが終わり、家へ帰ると急いで昼食を取った。


 食べ終わると、無地のノートと筆記用具、そしてバイトの帰りに買ったものを手に持ち、家を出た。


 いつもよりも軽い足取りで、外を駆け、最近は見慣れた階段の前に立つ。


 ペースを落とす事もなく最上段まで上りきると、頭の上には立派な鳥居がまたがっており、目の前には困憊している祠が佇んでいる。

 祠まで駆け寄ると、荷物を置いて、大きくもなく小さくもない声で呟いた。


「いるか?」

『あ、いらっしゃい』


 祠の中から壁をすり抜け神様が現れた。


『今日はどうしたの? 息を切らしてるみたいだし、それにちょっと嬉しそう?』

「ああ、いいアイディアが浮かんだからな」

『アイディア?』


 神様が頭上に疑問符を浮かべて首をかしげた。


「そう、アイディア。よっと」


 俺は今日の帰りに買ってきたものを広げた。

 なぞなぞ、心理テスト、パズル、ゲームブックetc.紙一枚で出来る遊び本。


『これはなあに?』

「これも一種の子供遊びでな、こんなかであんたにとって一番面白いものを見つけて教えてほしいんだよ」


 神様にとっては何もかも新鮮。


 子供と同じように楽しむ事が出来て、大人と同じように感想を言える。

 それは、とてもすばらしい事だ


 そして、神様にとって一番面白いと思った遊びを、広告に組み込み、子供に配る。


 広告そのものがおもちゃなら、子供は受け取ってくれるはずだ。

 そして、受け取ったら遊びながら広告を見てくれるし、運良く家まで持ち帰ってくれたら、親に伝わる。


 あの商店街だからこそ出来る宣伝。

 神様と繋がってるからこそ叶えられるアイディア。


 今の俺にぴったりじゃないか。


『わかった、よくわからないけどそれがキミの役に立つのなら』

「そんな構えなくて良いって、とりあえず、遊び方教えるから楽しんでくれ」

『うん、わかった』


 神様がニコリと笑う。そしてこの笑顔に、いつも癒されている自分がいる。


「そういやあんたって、文字読めるだろ?」

『うん、読めるよ』


 かなり読む速度は遅いが、それは漫画で実証済みだ。

 常用漢字はもちろん、常用外の物もある程度読んでいた。


「……これも興味本位なんだが、神様ってどこから知識得るんだ?」


 言葉は喋れるし、文字も読める。

 言葉は普通に現代の標準語だし、デザイナーなんて言葉も知っていた。


 他には、自分自身が神様ってことや、神様の仕組みとかも知ってるみたいだしな。

 誰とも接点を持っていない神様が、俺と同じくらいの時間、いやそれ以上生きてたとしても到底得られる知識だとは思えない。


『うーんとね、神様は学ばなくても年を取るだけで知識が増えていくんだよ。

 何て言うか、神様はみんな全知なんだけど、それを全部忘れた状態で生れてくるんだぁ。


 そして、年を取るごとに、少しずつ思い出していくの。

 だから神様は年を取っていれば取っているほど、物知りで、偉大で、神格も高いんだよ』


 年を取るだけで、知識が増えるって聞きゃ便利そうだが、この神様みたいに誰とも触れ合う事が出来なければ、年を取る事でしか知識を得られないという事だ。


 それはつまり、自分の知りたい知識を優先して知ることができないってことで。

 どれだけ疑問に思っても、時が来るまで知識欲を満たす事が出来ない。


 それに、知らないほうが良かったと思うような知識を得る事だってあるだろう。

 人間の物差しで計っていいかはわからないが、それはそれで辛いことなんだろうなぁ、とか思ったりする。


「なるほどな。見谷川祭りが終わるのを知ってたのもその関係か?」

『ちょっと違うかな。私はそういう存在だから、それがわかる』

「どういうことだ?」


『自分のことは自分が一番良くわかるってことだよ』

「……そうか」


 神様の余命はおおよそ一ヵ月。

 それがわかるっていうのは、どういった気持ちなのか、俺には想像できない。


「それじゃあ遊ぶか、まずはなぞなぞ」

『どんな遊び?』


 やっぱり知らないか。

 ボードゲームも知らないようだったし、娯楽関係の知識の習得は後回しのようだ。


「そうだな……とりあえず、超メジャーな例題を挙げてみるか」


 いきなり、なぞなぞの本読ませてもわけわからないだろうしな。


「パンはパンでも食べられないパンはなーんだ?」

『え? なぁに、それ?』


 神様の目が点になった。

 まあ、そりゃそうだろうなぁ、うん。


「それを考えて答えるのがなぞなぞだよ」

『えっと、そうなの? えー…っと、腐ったパン?』


 初見だったら、そうなるよな、普通。


「違う。もうちょっとひねった答えだ」

『ひねった……? あっ、ものすっごく苦いパン!』

「違う」


 そもそも、頭の中になぞなぞという概念がないから、答えまでたどり着けないのだろう。


「もう、答えが出なさそうだから答えをいうと『フライパン』だ」

『ふらいぱん……? フライパン! ああっ、なるほど。確かに食べられないパンだ!』


 神様がブンブンと頭を縦に振った。


「……納得してくれたようでなによりだ」


 なぞなぞ初見ってみんなこんな感じだったか、それとも神様のリアクションがいいだけか。


「まあ、大体そんな感じの問題がなぞなぞだ。言葉遊びになってるものが多い、それだけとはかぎらねぇが」

『うん、わかった』


 興味を持ってくれたのかなんなのか、神様がふわっと浮いて、両手でガッツポーズをした。


「ん、じゃあ、とりあえずやってみてくれ」


 そう言って、買ってきた『たのしいなぞなぞ』という、あきらかに幼児向けの、なぞなぞ本を開いた。


『よっ』

「――……ッッ!?」


 前例の通り、神様が後からのしかかってきた。


「そうだったな、忘れてた……」

『?』


 二回目とはいえ不意打ちだったので、よろけてしまうし意識もしてしまう。


『早くページめくってよ』

「お、おう」


 ハードカバーの重量感を感じながら、遊び紙をめくると、前置きがあって、その次のページからなぞなぞが始まった。

 この本では右ページ1枚を一つのなぞなぞで使い、めくった次の左ページに答えが載っている方式のようだ。


「読み終わって、答えが出たら言ってくれよ。ギブアップもありだ」

『うんっ』


 神様は1問目にたっぷり10分以上かけてギブアップ。

 1時間ほどかけて、10問に挑戦したが正解したのは2問だけだった。


『うーん、難しいね。わかったときは嬉しいんだけど』

「そうか」


 幼児用のなぞなぞ本だし、あまりにひねった問題や語彙が必要な問題はなかったが、予備知識がない初心者には少々厳しいようだ。

 なぞなぞの答えを導き出すノウハウが頭にないわけだしな。


 仮に広告に使うとして、幼児レベルまで問題を落としたら、小中学生を退屈させる事になるし、上の学年にあわせれば、幼児には回答不可能になる。少々厳しいか。


 そもそも、活字がこれだけ使われてる時点で、ある程度対象年齢を絞ってしまう。

 文字が多い遊びはイラストを交えたビジュアルに組み上げにくい。


 今回、主に買ってきたのはクイズ系のもの。

 思いついたときは良いように思えたが、ダメなアイディアだったか?


『これ、なあに?』


 俺が思考にうねりを上げていると、神様が広げたほんの中の一冊を指差した。


 似た絵が二つ並んでいる。間違い探しの本だ。

 他の本に比べて、表紙に特徴があったから目に付いたのだろう。


 って、ちょっと待て。


「間違い探し……いいかもしれねぇな」

『ん?』


 間違い探しのルール自体は簡単だし、問題の解き方も両方の絵を交互に見るだけ、答えを導き出すためのコツがいらない。

 簡単な間違いと、難しい間違いを同じ問題中に用意できる。


 誰でも答えを見つけ出せる喜びを味わえるし、難易度もそれなりに確保できる。

 それに、言わずもがなイラストベース、間違いもイラスト加工ソフトで作ってしまえばいい。


『どうしたの?』

「おっと悪い、考え事してた。ルール教えるからやってみてくれ」

『わかった』


 これで、神様が『面白い』と感じたら決定だな。

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