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13.本日バイト、大人と子供。

 翌日、日曜日。


 本日は午前にバイトがある。ちなみに、シフトは瑞樹と被っていない。

 店長も外に出てるし、今は俺一人だ。


 客の居ない時を見て、本やCDの表紙を眺めてみたり、ポスターを見てみたりして、アイディアを探しているが、いまいちピンとこない。

 子供も大人も楽しめる。子供が来れば、大人も動く。子供、大人、子供、大人。


 あー、ダメだ。


 そもそも、子供とか大人とかで、がんじがらめになっちまってるのがいけないよな。

 いったん、そこは置いといて、なんか別のアイディアを……。つっても、取っ掛かりがないとなぁ。


「あー、昂一じゃーん」


 煮詰まって、頭を抱えていると、聞きなれた声が聞こえた。


「蓮?」


 そこに居たのは蓮。

 今日も服装はワイシャツに制服のズボンだ。


「あ、いらっしゃいませ」


 自分は店員という立場である事を思い出して、慌てて接客モードに移った。


「あー、いつも通りでいいよー。他に店員もお客もいないうちはさー」

「お、おう」


 あいもかわらず、小雨や瑞樹が居ない時は、だらけた喋り方になる。


「いまは暇?」

「……他にお客はいないし、やることはないな」

「いいねぇ」


 蓮はカウンターにもたれかかった、完全に雑談する姿勢だ。


「で、どうよ? デザイン案まとまってきた?」


 ストレートにグサッと刺さる質問だな。


「……正直言うと、あまりまとまってない」

「ふーん、まあいいけど。期限に間に合わせてくれればー」


 逆に期限に間に合わなければ良くないと。当たり前か。


「はー、俺もわかってんだよ。出来れば今日、遅くても明日にはアイディア搾り出して小雨に伝えないと間に合わねぇって、小雨がイラスト描いてる間に、素材作るにしても、ぎりぎりだしな」

「学校通いながらだしねー」


 蓮がヘラヘラと笑った。


「蓮のほうはどうなんだよ?」

「わたしの方はまぁ、頑張って原稿とかプログラム組んでるよー?」

「その辺は問題ねぇか、蓮は」


「これはまた、なかなか信用されちゃってるみたいだねー、私。嬉しいねー」

「そりゃ信用してるっつうの、今のところ蓮がこの手の約束を破った事ねぇしな」

「それはそれは、今後も約束は厳守して、勝ち取った信用を守ってかなきゃいけないねー」


 約束を厳守することももちろんだが、蓮は他の高校生にはない、安定感? みたいなものがあって、安心して身を委ねられる。


「ちなみに、どんな感じでプレゼンする気なんだ?」

「ん? 無難にパワーポイントで、別にライバルが居るわけじゃないしねー。奇を照らってわかりづらくする必要はないよ」


 補足だが、パワーポイントとは、簡単にスライドショーが作れる、プレゼン用のソフトである。


「パワーポイント使うっつーことは、プロジェクターとかいるだろ? 大丈夫なのか?」

「あー、以前にも学校から機材一式借りた事あるし、大丈夫だと思うよー。

 プレゼンする場所がプロジェクターを設置できないくらい狭かったり入り組んでたりしたら、ノートパソコン直接見せるし」


 その辺もぬかりないってか、さすがとしか言いようがないな。


「そういや、プレゼンの時俺らもなんかするところあるのか? ほら、宣伝広告のところの原稿は俺が読むとかさ」

「いやー、プレゼン中は特にないかなぁ。学生の内はプレゼンの時、読み回しとかしている人いるけど、個人的にアレは好きじゃないし」

「そうか」


 読み回しは、誰もがやりたくないプレゼンを公平にできる利点があるが、もたつくし優れた手段ではない。

 俺としても、人前で上手く話す自信ないし、蓮が全部言ってくれるならそっちの方が嬉しいな。


「あ、でもプレゼンとは直接関係なく、ちょっと重要な役はやってもらうかもー」

「へー、なにやりゃいいんだ?」


「それは当日までの、お・た・の・し・み♪」


「?」


 身内にもナイショのことってなんだよって突っ込みたくなったが、蓮の事だ、何かしらの考えがあるのだろう。

 蓮の事は全面的に信用することにしているので、深く追求はしないでおく。


「おっと、お客さんが来たみたいだね」


 そう言って、蓮がカウンターを離れた直後に、小学生くらいの子供が店の中に入ってきた。


「いらっしゃいませ」


 一瞬、なぜ入ってくる前にわかったのかと思ったが、蓮の位置からだと、ガラスの自動ドアから外が見えるので、入る前にわかったのだろう。


 蓮はあらかじめ買うものを決めていたらしく、小難しそうなビジネス書を一冊買って出て行った。

 去り際に放ったウインクが気になったが、スルーしておこう。


「…………」


 ちなみにどうでも良いが、入ってきた子供は買う本が決まっていないのか、見つからないのか、店内キョロキョロと見回しながら、徘徊している。


 小学生か。


 小学生の頃は、なに考えて生きてたっけ?

 思考がフワフワしていて、好奇心に従順で、思ったことはすぐやって、集中力があったりなかったり。


 そういや小さいの頃は割とやかましい方だったよな、俺。


 目立つのが好きで、いつも変なものを作ってた。

 漫画だったり、粘土細工だったり、文房具を使ったゲームだったり、色々。


 そして、なんでも好きだった。

 運動するのも、工作も、電子ゲームも、ボードゲームも、時には勉強だって。


 今みたいに、変に現実を見る事もなく。

 今みたいに、非現実に立ち会っているわけでもなく。


 楽しかった。


「これ、おねがいします」


 小学生が、やっとお目当ての一冊を見つけたらしく、それを持ってきてレジに置いた。

 お手ごろな価格の子供向けマンガ雑誌だ。


 ああ、そういやこうゆうの、友達の家でよく読んでたなぁ。

 展開がベッタベタのバトル漫画も、下ネタだらけのしょうもないギャク漫画も、当時としては面白くて、夢中になって読んでいた。

 そういや、付録でスゴロクとかついてて、それみんなでやったりもしてたな。


 ――付録?


 小学生の会計を済ませ、自動ドアから外へ出るのを見送る。


 そして、小さくガッツポーズをした。

 そうか、その手があった……!!

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