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11.期限は十日、気まずい空気。

「さーてと、第二回見谷川祭り復活計画相談会を開始するよ」


 午後、計画まとめるために集まるとか言っておきながら、どこに集まるか決めていなかったのでみんなに連絡してみると、何だかんだで、俺以外の全員が俺の家に集まるものだと思っていたらしく、結局俺の家に集合する事となった。


「つーか、いつのまに俺ん家が拠点になったんだ……」

「まあ、最初に集まったのが昂一の家だったからねぇ。わざわざ変える理由もないし」


 今日は本気でまとめるつもりらしく、蓮がノートパソコンを持ってきている。


「あと、見谷川祭り復活とか言ってるけど、見谷川祭りはまだ死んでねぇ」

「……細かいな」

「うるせぇ」


 今俺にとって見谷川祭りの生死は、デリケートな問題なんだよ。


「蓮先輩って、勉強をするときは眼鏡をかけるんですね。目悪かったんですか?」


 ちなみに蓮は、ワイシャツに制服のズボン、そしてメガネという格好。

 男物の制服を着ているのは、休日も平日も、カラオケ行こうがボーリングしようが変わらない蓮のスタイルだ。体育の時だけはジャージになってるっぽいが。


「あー、違う違う。これはPC用のメガネだよ」


 パソコンから出る、目に悪い光をカットするメガネか。


「流行ったよな」

「私たちの世代は、ことあれば『目が悪くなる』って言い聞かされた世代だからねぇ。関心が高いのもしょうがないよ」

「ああ、そう言われればそうだな」


 ゲームもテレビも、見すぎるのは良くないって、よく母さんに言われたもんだ。


「さてと、企画のまとめに入りたいんだけど、まず小雨ちゃん、商店街と話しつけられそう?」


「はいっ、お母さんを通して話してもらったところ、話し合いは、平日の仕事が終わってからなら、いつでもいいそうです。

 ちなみに、最初はお母さんと商店街の会長さんに提案して、それで好感触だったら、会合で見谷川祭りの関係者全員に提案するという段取りにしたいそうです」


「それはそれは、なかなか好意的な返事が返ってきたねぇ」


 最悪、話も聞いてもらえず門前払いをくらう可能性もあった。


「いつでもいいって言ってくれてるし、昂一や瑞樹のバイトの時間とかと合わせて、都合のいい日に提案しようか」

「おう」


 こっちの都合に合わせてくれるなら正直助かる。

 貴重な時間を割いてくれる、恥じる部分のない完璧なものに仕上げないとな。


「だが、祭りまであまり期間がないのだろう? 早いに越した事は、ない」

「そうだねぇ、それじゃ少しでも早く提案出来るように、素早くキッチリ企画しよっか」

「はいっ」


 とりあえず、昨日話した内容を箇条書きして、そこに一晩で思いついたことを付けたした。

 その中で、実現が難しそうなものや、ギャンブル性の高いことを省き、ローコストで実現できる事や、リターンが高そうな事をピックアップした。


「結局は昨日の話し合いの前半で出てきた案が筆頭だな」


 有志のステージ発表。抽選会。

 あとは、出店の品を一気にだすのではなく、時間帯をずらして売る事で、人を留まらせるとか、シャッターの下りている店舗を格安貸し出す。などが、有力な案だ。


「いつの時代も……閃きに勝るものは、ないということだ」

「予算は出来る限りおさえないと通らないだろうから、こんなくらいが限界だろうねぇ。後は、いかに宣伝するかってことだね」


「昂一の出番、だな」

「俺? 一応全員デザイン科だろ?」

「だが……デザインナーを目指しているのは、昂一だけだ」

「それに、言いだしっぺだしねぇ」


「いや、まあいいけど」


 元々そのつもりだったし。


「私も微力ながらお手伝いさせていただきます!」

「センキュ、イラストを使う感じになったら、その時は頼むわ」

「はい!」


 なぜか小雨が座ったまま敬礼をした。


「じゃあわたしは、イベント案の詰めとプレゼン用のまとめをするとして。瑞樹は祭り中商店街に流す曲でも作る?」

「ん? 無理に役割をくれる必要は、ないぞ? 暇なら暇でかまわない」

「いや、音楽ってのもありかもしれないぞ?」

「どうゆう意味だ?」


「見谷川祭りって、歴史は浅いのに全体的に古い感じがするってのも、客足が遠のく原因だと思うんだよ。商店街に流す音楽でポップな感じに出来ねぇか?」

「音楽で?」


 瑞樹が少しばかり首を傾げる。音楽でイメージの払拭は無理か?


「いや、いいアイディアかもしれないねぇ」


 だが、蓮だけは思い当たるところがあったようだ。


「商業と音楽と言えば、ゆったりとした曲を流したらお客さんがゆっくり品物を見るようになって、テンポのいい曲を流したら店の回転が速くなるって効果があるらしいよ。

 だから『雰囲気作り』という観点からは音楽はかなり重要な役割がある。聞き流してても深層心理には働くんだよ、きっと」

「そうか。……では、やってみよう」


 俺が言うのと蓮が言うのでは、同じことを言っても説得力が段違い過ぎて泣けてくる。


「さてと、提案するのは、とりあえず昂一の宣伝広告と瑞樹の音楽が出来てからだねぇ。どれくらい時間ほしい?」

「え? 広告や音楽が出来る前でも、企画や作品の完成予定で提案しちゃダメなんですか?」


「ダメってことはないし、最初はそのつもりだったけど。今回わたしたちは圧倒的に下の立場でかつ、ぶっつけ本番だからねぇ。

 ラフ案提出や、『予定』はあまり良くないと思う。こっちで時間を決めれるんなら、良い状態で見せようよ」


「……そうだな。身の程をわきまえるべきだ」

「それに、デザインに関わっていない商店街の人たちが、ラフから正確に完成図をイメージするなんて無理だろうしな」

「そう、ですか」


 小雨はこの中で唯一商店街側の立場だからな。


 小雨にとって商店街は、『身内』。

 俺らにとって商店街は、『クライアント』。


 そこのところの、感覚のズレは仕方ない。


「で、俺らの作品完成までの時間だな。俺は1週間……いや、2週間は時間くれないか?」

「ずいぶん、長く時間を、とるんだな」

「すまん」


 確かに、あと一月半ほどしかないのに2週間も取るのはやりすぎかもしれない。だが……。


「小雨ちゃんの絵を使いたいんだね?」

「そうだ」

「先輩……」


 さっき『イラストを使う感じになったら、その時は頼む』と言ったが、やっぱり、この祭りはここにいる4人全員の力で成し遂げたい。

 小雨を商店街の橋渡しのためだけに参加させるなんてやりたくないんだ。


「なるほど、でも2週間はちょっと取りすぎかな。10日で頑張ってよ」

「10日?」


 小雨の絵の完成には1週間ほどかかる。つまり、俺に与えられる時間は実質3日という事だ。


 そもそも、イラストをもらってからカンプ(完成品の見本)を作成するのだって、前もって素材を用意しても最低1日はかかる。

 結果、俺に与えられるアイディアを練る時間は2日と言う事になる。

 今の俺の技術じゃ、間に合わないし、間に合ったとしてもクオリティが落ちる。


 だが。


「わかった、やる」


 神様と出会って、散々のんびりやってきたんだ。

 そのツケを今払うというのも悪くない。


「瑞樹はどれくらいかかりそう?」

「ではオレも10日で作成しよう」


「音楽ってそんなに早くできるものなんですか?」

「音楽の作曲の期間は人によってかなりブレがあるらしいが……。オレの場合実際に書き始めてから完成するまでは2週間ほどだ。まあ、頭の中でほとんど完成させてからしか書かないが。

 今回は、ストックしてある曲をアレンジして時間短縮するつもりだ」


「OK、二人がそういうなら――」


 蓮はニコッと笑って。


「まかせるよ?」


 鋭い視線を送った。


 マジな目だ。それも当然の話。俺が遅れれば、その分全体が遅れる。

 遅れれば遅れるほど、提案は通りにくくなるし、通らなくなればみんなの努力が無駄になる。


 失敗は出来ない。だが、もちろん引く気もない。


「まかせろ」

「右に同じ」

「がんばります!」


 俺を含む3人が、口々に返事をする。


「うん、わかった」


 ニコリと笑うと蓮は立ち上がった。


「それじゃあ、わたしはいったんここで帰るね。集中して考えたいし」


 蓮が、ちらりと瑞樹の方を見る。

 瑞樹はその視線を送られると同時に、何かに気づいたようで、立ち上がった。


「では、オレも早く作業に移りたいから、帰るとする」

「おう、気をつけて帰れよ」


 もう解散の流れか、と思ってとりあえず俺も、見送るために立ち上がろうとする。

 だが。


「じゃあ、宣伝ポスター組二人はがんばってねぇ」


 蓮の言葉で止められた。


 蓮は俺と小雨の二人っきりでいたときの惨状を察してくれているはずだ。

 無言で抗議の視線を送ってみたが半笑いで返された。面白半分か? 面白半分なのか!?


 結局、蓮と瑞樹がウチの家のドアを閉める音を見送り、部屋に俺と小雨だけ残された。


「…………」「…………」


 もちろん会話はない。

 つってもここは、先輩らしくこの無言の地獄を何とかしなくてはという焦りはある。


「まあなんだ。少し前から宣伝のことは考えているわけだが、まだ具体案があるってわけじゃねぇんだ」

「そ、そうですよね。私も学校の課題とかでアイディア出すのにいつも苦戦してますし」


 小雨が会話を繋ごうとしてくれているのがひしひしと伝わってきて泣けてくる。


「だけど、小雨のイラスト使うってなると最低1週間はいるだろ? 蓮とは10日って約束しちまったし、明日までには具体案を出すつもりだ」

「はい、わかりました」


「でだ、ここでうだっててもしょうがねーし、商店街に散歩にでも行こうかと思う」

「なるほどっ、それはいい案です」

「あと、小雨もなんかいいアイディアを閃いたら、言ってくれよな」

「了解しました!」


 ゲームの会話かよっ、ってくらいぎこちない会話だったが、とりあえず『この部屋で気まずい空気の中延々と』って、展開だけは避けられそうで安心した。


「それじゃあ行くか」

「はい!」


 財布と携帯をポケットに入れて、小雨と共に外へ出た。

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