鈴木明日香
瑠璃が電話を切った頃。
鈴木明日香、蒼白高校二年にして生徒会長であり、理事長兼ANA代表、そして蒼月の御旗の現党首の娘。
長い赤みがかった髪を一つにまとめ、ずんずんと廊下を突き進む。
蒼白の生徒会室。
無論公表されてなどいない地下室はいくつかの手順の先にある。
生徒会会長の机の二番目の引き出しに、生体認証つきの鍵が付いている。
認証すると、会計記録の束。その二段底にあるカードリーダーに持っているカードを当てることで、本棚がくるりと回り、続く階段が現れる。
絶対趣味だ。と思っている。
ここまで来て、気配を殺し一歩一歩地下室へと向かう。
「礼先生、帰還したようですね。赤点してます。処理していいですか?」
「ああ・・・これは?」
「あ、これは、いつものです・・・これも?」
「一応記録して処理して」
「はい、じゃあ記録して処理しますね」
「分かってると思うが」
「はい、住所とかの照合はせずに、時間とクラスだけですよね?」
「よろしい。助かるよ」
ばっちり押さえた。
ぐっと握りこむと特製グローブが絞まったいい呻りを上げる。
途中で生徒手帳をトイレに置いてきて正解だった。
「見たし、聞いたわよ! お父様!」
「あ、明日香!? トイレじゃ!?」
「あ、あ、あわ、わ」
「消して! モニタ!」
「は、はいですぅ!」
馬鹿正直な小気味のいい返事が、フロアに響く。
「どうしてわたくしには見せないのですか!」
鈴木一楼、私の父にして、この人は、蒼月の御旗の党首。
細面の紳士にみえてその実、腹黒い狐。
慌てた様子はうぐに鳴りを潜め申し訳なさそうな顔をしている。
わたくし?
まさに般若といったとこじゃないかしら・・・
「なぜ言ってくれないのですか。あの赤点、故障ではないのよね? それにその反応。何を知っているのですか!」
「明日香」
でた。
開き直った演出。
開いているかどうかも怪しい細目をして腕を後ろに組むとき、決まって
「瑠璃君、この国の新しき法についてどうぞ」
「は! はい! 何人も能力による暴力を禁ず! ですぅ!」
「ほら!! だから未然に防がないと! そのための私たちでしょ!」
「・・・・それじゃなくてね。瑠璃くん」
「あああ! 何人も能力による束縛を受けない!ですぅ!」
「で、でも例外はあるでしょう!」
「そこに個人情報についての記載もあるよね」
「はい!!」
「じゃ、じゃあこの感知システムはどうなるのよ! 未然に防いできたでしょ!」
「はい、そこが勘違いだ。明日香。我々は指示をしているが、その前に必ず警察、あるいは軍に情報を流し、独自のルートで迅速に判断するという手続きを取っている。むやみに騒ぎ立て、能力が高そうだから見張るなどはしない。まして一、いち隊員に過ぎないものに個人情報を流すなどしない」
「・・・わたくしは別に。そうね・・・でも、いつものと違う。この赤点に関しては瑠璃が言ってたじゃない。お願い瑠璃! 本当のことを教えて! わたしくしは・・わたしはお母様と!」
「詩織を引き合いに出す!・・・・んじゃない」
「・・・・・・」
「もう、帰りなさい。怒鳴ってすまない」
「絶対調べるから。絶対に・・・」
「誓ってもいい。これは詩織のような暴走ではない。信じろとはいえないが、私じゃなくても瑠璃君を信じればいい」
「あ、・・・・ごめんなさい」
「いいのよ・・・悪かったわね。今度買い物でも行きましょう」
淡く点灯された青い廊下、伸びるのは自分の情けない影。
いつもこうだ・・・結局わたしはお母様の真似をして、そして惨めになる。
何も知らされないまま、何も変わっちゃいない。
「明日香、あと10日で分かる」
「!?」
「これ以上は私の首が飛ぶ、物理的にな」
「え!」
声を上げたのは瑠璃だった。
全部知ってるわけではないの?
「そ、そう! 見てなさいよ! そ、その時は覚悟して!」
何をだよ・・・とお父様が言っていたけど、それどころじゃない。
機密に関することで私に教えてくれたことなんてッ!
綺麗な廊下、わたしくしの誇る蒼月の御旗の色。
鈴木明日香が日本高校生最強の名を失うまで、あと10日・・・
お読みいただきありがとうございます^^