神山 礼
神山 礼。
蒼白第一高校の人気女教師。晴れやかで清く美しく厳しくも優しい。
まさに蒼白の名にふさわしき人気教師。
長い黒髪はたなびく風、颯爽と歩く姿に風に愛されていることは間違いなし。
控えめのヒールをはきこなし、凡庸なスーツをカリスマまで引き上げるフレッシュさは夏の雲のように美しく。
切れ長の繭と目は慈愛と厳しさを、整った顔は冷静さを際立たせ、控えめのリップからは彼女の聡明さを伺わせ、その心を解きほぐし、時には叱咤する。
これが私の表の顔だ。
実際は、ただただ明日香様の恩ために。
理事長であり、恩人であり、家族とおっしゃっていただいた理事長、兼、蒼月の現御旗、その人のためにあり続ける、けがらわしき魔女だ。
学園の教師になったのも明日香様と近くにいたいため。
清くあらんとするも、能力者が豊富に入学する蒼白第一で蒼月へのスカウトのため。
あの明日香様、正真正銘の無垢でおちゃめで女神で妹にしたい、私の太陽のため。
それが・・・
「なんで貴様なんかと二人で・・・・」
「そんなに怒らないでくださいよぅ」
「いいから、さっさと探す」
あり得ない。
こんな使えない男、勘がいいのは認める。能力者としては発現(能力として名称を登録されること)もまだだが、あの厳重なANAのビル内で暗証番号を開け、みられてはまずいという状況に飛び込んできた餓鬼。
タイミングまで今しかないと思いました。と吐いて、いたずら心でと抜かす。
明日香様は寛大で、確かに能力として試験結果もでてパロディみたいに入隊も許可された。私は頑固反対したが。
だけど・・・
凡人、自分では発揮できない能力、ぽっとひらめく・・・
そんな当てになるようでならないものと私が二人で警邏?
「ありえないでしょ」
「え? あ、ああ、ありましたよ! ちょっと待ってくださいね! シートの下に落っこちて! あ、おお! さらに届かないところに!」
・・・・・・・・あり得ない、ありえない、あり得ない・・・九時過ぎてるわ。
あきれて怒りを通り越し、自分に配給されている携帯をさぐる。
まったくぶるりともせず、着信履歴もない。
明日香様・・・
戻ってこないとは言っていた。
でもひょっとしたら、この後行く予定だったイタリアン。
ひょいと戻ってくるかもしれない。
はたまた、もう食べた?と、愛らしいしぐさで聞いてくるかもしれない。
本部からここまではそう遠くない。
なんなら迎えにいく。
ぴりりり!
携帯がなった! 急ぎポケットへしまいなおした携帯をてにかけるが
「あ! もしもし! 瑠璃ちゃん! はい、春日っす!」
本当に神経を逆なでする。
任務中に上官に対してちゃんづけ。
確かに、学園では瑠璃ちゃんは年下になる。
だが、能力は段違いでその貢献は類を見ない。
「敬語!」
「は、はいぃ! あ、なんでもないってないです! 瑠璃先輩」
『気にしなくていいですよぉ。先輩だなんて、ふふ』
「気にしなかったら私が許さない」
「わ、わかってるっす」
『はい?』
「いえ、あの異常はないっす! そっちはどうでしょうか! 反応は?」
『な、ないですよ! えっと礼先生にお伝えください。会長じゃなかった、明日香さんにはこちらから事情を説明しますぅ、もう付くと思いますしと』
「了解です、にしても心配性ですよね! 誤作動っしょ!さいきんのほぉっ・・・ぐぅ」
『もしもし?』
全く、明日香様はまじめなのだ。
確かに、誤作動は最近多いのは気になる。
それにしても、今日に限ってわざわざ戻って確認する必要はないのでは・・・イタリアンが・・・
「あ、もしもし瑠璃ちゃん?」
『あ、先生。伝言聞きました?』
「ええ、馬鹿が音量最大でもれてたわ。え? 春日君? 大丈夫よ、ちょっと咳き込んでるみたいね」
『そうですか・・・そういうことなので、直帰でも大丈夫ですぅ』
「分かりました。ところで明日香様は?」
『会長は、すごい勢いでこちらに向かってきてます、あ、転移で帰ってもいいですよ。ちゃんと処理しておきます』
「助かるわ、じゃ、お疲れ様」
『はいですぅ』
可愛い。ほんとに可愛い。
きっとこの街の、いや、世界の天使として生まれ出でたに違いない。
と、言うほど萌えなどに興味はない。ただ、その能力は世界類まれなるものだ。
感知アビリティは多くいるが、瑠璃ちゃんの感知はレーダーのようなものだ。
個人個人では分かるもの。それを特化したものが感知アビリィティ保持者。
そしてさらに上。
全方位に視覚的に捉えること、旧世代のパソコンにつなげば電気的にその存在を知らせることができる万能型。能力危険度、方位、数。これらが分かるものは世界でなんと一人。
東野瑠璃、我等が天使の情報参謀だ。
何度も言うが、春日とは比べ物にならない。
いや、失礼というものだ。
誤作動はPCのほうが合っていないのだろう。
「あ、あのぉ。今日って僕のお祝いであの高いイタリアンに」
「行くわけないでしょ。明日香様があなたのために言い出したの。そのお嬢様がいないのになぜ貴様はいけると考えているのかを知りたいわね」
「あ、ああははは・・・」
「真面目なことをいえば、居眠りなんてありえないわ。レッドシステムはまだ完全とはいえない。それにしてもよ。油断しすぎだ。もしレーダーに赤点がつくようなら、危険極まりないのよ」
「はい・・・っす」
本当に分かっているのかしら・・・いや、知らないのが普通か。
この子の世代は。
「じゃ、手っ取り早く転移で送るわ。車も、あなたもね」
「え? そこからの~~~!」
「行かないっていってるでしょう!」
「・・・・ぐすん」
「はぁ・・・・降りるわよ」
「ああ!? 明日香さん!」
「え!?」
バックミラーを覗くがどこにもいない! どこ!
「あ、じゃなくて、あの明日香さんがこのあたりを気にしてる理由がひらめいたんです! 一応アビリティで!」
「・・・・・・」
「ほ、本当です!」
「そう、なら言ってみて」
「それはぁ、そのイタリアン」
「あなた、私と二人で行きたいの? のどを通るの?」
「そりゃもう! あそこは評判ですし! それにっす! 教師としていかないとまずい思うっすから!」
「変な頭まわるのね・・・いいわ、言ってみなさい。もし有益なら考える」
「まじっすか! えっとっすね! このあたりって赤点誤作動多いってことっすけどね!実は、いるんすよ! 俺の勘が言ってるっす! しかも、そんじょそこらのクラスじゃないっすよ! それで明日香さんはたぶんそれに気づいてるっす!」
「・・・・・・で?」
「でって・・・・それだけですけど、確信にかわったっしょ?」
「あなたねぇ・・・確定してないアビリティの誤差のほうがよっぽど信用ないのは知られてるでしょう・・」
「でも、本とにですね! そう! ANAの時よりもですよ!」
「・・・・もう一声」
「・・・・あ、明日香さんのもう一つの理由、分かったかもしれないです」
「もう一つ? それは興味深いわね」
「・・・・ほ、ほら、あの変人、レンって人! この近くって! おお、ってここですね!」
「・・・あら、本当。意外と普通の家ね」
「ずばり! 恋っすよ! 変人と会長! これはありえなくもありえるパターンでひゃ!?」
「冗談でしょ・・・今のはあなたの推測よね? 1%も許さないわ」
「・・・・・う、嘘でした。すみません」
「じゃ、帰るわよ」
「う、うっす? 怒らないので?」
「罰はもちろんあるわよ。徹夜お疲れ様」
「徹夜?? 残業っすか?」
「いい、道はまっすぐ下ればいいわ」
「は?」
「じゃ」
「は?・・・・え?・・・」
もうぉ~~~。
「う、牛? 先生! 礼先生!嘘でしょう! あ、携帯!ってですよねぇ!」
牧場だった。
それも山へ放し飼いタイプの・・・
「むりっすよぉおおお!」
春日の叫びは綺麗な星空に吸い込まれ、モウ!っと牛の鳴き声が呼応するだけだった。
お読みいただきありがとうございます。
もともとできてるものをちょっと修正して出してるので、こんな感じで、
出す時はぽんぽん出しますね!




