ドラゴンサイド
私が生まれたのは20年以上も前になるか
私には両親というものがいなかった
事故にあったのか、同族同士で争って亡くなったのかは分からないが
とにかく、そういう状況だった
生まれて間もない私は、狩りをすることもできず日に日に衰弱していった
その日は漆黒の洞窟の奥で、雨をしのいでいた
睡魔に襲われ、意識が遠のいていきそうだった
「かわいそうに、あなたはまだ子供なのにここで息絶えようとしている。
あなたに罪はないわ、あなたが一人で狩りができるようになるまで、母親の代わりになってあげる」
遠のく意識のなかで、声が聞こえた
柔らかく優しい声に私は目を覚ました
一匹の雌の竜が私の目の前にいた
彼女は餌を私に運んできてくれ、私が動けるようになるまで、面倒を見てくれた
なぜ私にそこまでしてくれるのかは分からなかったが、彼女のおかげで私は生き延びることができたのだ
むさぼるように獣の肉をほおばると、私はすぐに眠りについた
翌日から、彼女は私に狩りを教えてくれた
洞窟から飛び立ち、広い高原までやってきた
バッファローの群れが水場で休憩している
私は今日の朝飯と思い、その群れめがけて突っ込んでいった
しかし、うまく体を操ることができず、すぐに群れに気づかれ、逃げて行ってしまった
「あーあ、僕はあんなトロそうなやつも捕まえられないんだね、姉さん手本をみせてよ」
彼女は見てなさい、と言わんばかりに翼をばさっと広げてみせ、私とはくらべものにならない早さで獲物に食らいついた
私の目の前に息絶えたバッファローがどさりと落とされた
「いい?力んで翼を動かしても自由に早く飛ぶことはできないわ、飛ぶときは素早く、でも相手にめがけて行くときは羽ばたかせないでできるだけねかして、切りさくように、それを心がけて、まずは練習ね」
「まずは朝食がいいな」
「ふふ、そうね 丁度ご飯も捕まえたことだし」
私は彼女が好きだった 優しい彼女とともに日々を過ごすことで、孤独は次第に薄れて行った
体も成長し、1年を過ぎて私はもはや彼女よりも大きくなっていた
「あなたって、ずいぶん大きいのね 私と同じ種とは思えないわ」
笑いながらそう言っていた
好奇心が目覚めはじめ、私は今のねぐらから移動し、大陸を渡ってみたいと言った
彼女もそれに同意し、私と彼女は旅に出ることにした
またここに帰ってこようと約束をした
大陸を渡るにあたって、様々な困難があった
どの程度飛翔し続けねばならないのか
それがまったくの未知であった
私たちは、できるだけ体力の消費を抑える飛び方を研究した
それははじめに高く飛翔し、あとは風に乗ってグライドしながら進むというものだ
一度風に乗ってしまえば、羽ばたくのは一瞬で、風に乗って移動を繰り返すだけであった
孤島があればそこで休憩し、初めの大陸に到着するまで実に3日はかかった
大陸に到着したときは感動した
無事につけた という思いもあったし、こんな大きな大陸があるなんて半信半疑だったからである
大地に体をねかして、私たちは少し休んだ
気候はこちらのほうが温暖で、過ごしやすく感じた
休憩した後は、空腹を満たすために狩りをした
そしてねぐらを見つけ、二人で寄り添うように眠りについた
そうやって旅を続けていたある日、私ははじめて、ドラゴンに遭遇した
自分と同じ生き物にあうのは彼女以外初めてだった
なんの敵意もなく私はそのドラゴンに近づき、声をかけようとした
すると、
「お前、ドラゴンの王族の者だな 隣の大陸から来たのか やはり他のものより一回り以上大きいな」
王族?はじめは何を言っているのかと思った
「僕は他のドラゴンとは違うんですか?」
「もちろんだ、明らかに他のものより体が大きいではないか それが動かぬ証拠だ
王族のドラゴンの者に違いない しかし、なぜ王族のものともあろうお前が、あんなちっぽけな娘の竜と一緒にいるのだ お前にはもっとふさわしい相手がいるだろうに」
私はその時初めて自分が王族のものである、ということを知った
私は一晩考えた 自分が王族だった・・・
誇らしい気持ちが胸の中で湧きあがり、何かが自分の中で芽生えた
今思えば、ほんとに下らぬものだった
翌日から、私の彼女に対する態度に変化が生じた
彼女が何か語りかけてきても無視するようになったのだ
「何か具合でも悪いの?急に黙り込んで」
「・・・」
自分は王族だ、なんで君みたいな竜と一緒に旅をしなければならないのか
僕にはもっとふさわしい相手がいるんだ そう思うようになった
旅をしていてもつまらなく感じることが多くなった
飛んでいる竜を見かけては、あのドラゴンは彼女より大きいかもしれない、という事ばかりを考えていた
ある日とうとう私は我慢できなくなり、彼女に暴言を吐いた
「君と一緒に旅をするのはここまでにしよう。僕はもう君と旅をしたくない。」
言おう言おうと思っていたことがついに口から出た
「なぜ急にそんなことを言われなければならないの?私が何か悪いことした?」
「・・・」
彼女は目に涙を浮かべていた
そして最後にこう言ったのだ
「今まで、旅ができて楽しかった はじめはあなたが狩りをできるようになるまで、と思っていた でも、あなたと日々を過ごして、あなたとこうやって生きて行けるなら、わたしはこのままでいいと思い始めていた でも、あなたは違ったみたいね・・・できることなら私はあなたといたかった・・・体に気を付けて あなたならもう大丈夫よね 今までありがとう おせっかいだった私を許してね」
彼女の姿はもうなかった
私は、その時初めて気が付いたのだ!
彼女がいなければ私は満たされないのだ
最上の獣の肉より、雨風をしのげる最高のねぐらより、彼女のやさしさが必要だったのだ
私は寝る間も惜しんでもとの洞窟へ向かった
もしかしたら彼女が待ってるかもしれない
一睡もせず、できる限りのスピードで洞窟へ向かった
到着したときはまだ誰もいなかった
私はおそらく彼女は帰ってくるに違いないと思い、ずっとそこで待ち続けた
もう20年もたつ
私はとっくにあきらめていた 私のあの時の行動は今でも悔やんでいる
しかしもう遅かったのだ
あの出会いは奇跡だったのだ
そして奇跡はもう起きることはないだろう
自業自得とはまさにこのことだ
またいつものように狩りに行き、またいつものように眠りにつく・・・
元ネタはポール・〇コのジェニイ です