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■第80話 ジュンヤとユリ

■第80話 ジュンヤとユリ


 

 

数年後。


ミナモト家の玄関で、ユリの荷物を運ぶジュンヤの姿があった。

 

 

 

あの日。

父コウジに、ユリとの交際許可を懇願した日。


あれ以降、ジュンヤは約束通り一日も休まずに学校に通い、

きちんと高校を卒業していた。

そして、ジュンヤが悩みに悩んで導き出した”目指すもの”

それは、”食に関わる仕事に就きたい”という事だった。

 

 

ユリがラズベリーソーダを口にして言った『おいしい』 という一言。

あまりひとから褒められたりした事がなかったジュンヤには、

その一言が嬉しくて仕方なかった。


嬉しくて有難くて、なんだか心があたたかくて、

その思いはいつまでも消えることなく、繰り返し打ち寄せたのだった。

 

 

 

 

 

ひとの縁というものは、実に面白いもので。


父コウジに卒業後の進路について、”目指したいもの”を口にした時

ジュンヤ以外の父・母・ユリ3人が3人とも、目を丸くして驚いていた。

 

 

 

 『じゃぁ、明日からウチで修業しなさい。』

 

 

 

実は、コウジはイタリアン料理店のシェフをしていた。

そんな事、ユリから何も聞いてはいなかったので、ジュンヤは全く知らず。

 

 

   


父コウジの言葉に、ジュンヤは目を見張り固まった。

そして、深く深く頭を下げてお礼を言った。

何度も何度も、お礼を言った。


その目には溢れそうな涙がやさしく光っていた。

 

 

 

 

 

ユリの荷物を運ぶジュンヤ。


重い段ボールも軽々と持ち上げるその腕は、もう数年見習いとして日々コウジに

しごかれている為か、キレイに筋肉がついて盛り上がっている。

 

 

 

 『ユリちゃーーーん。』

 

 

 

サクラが、2階からユリを呼び叫ぶ声。

ユリはトラックへ荷物を運ぶことに集中し、それに気付いていない。

 

 

 

 『ユリ・・・?


  サクラちゃん、呼んでるぞ。』

 

 

 

ジュンヤの声に顔を上げると、トラックの荷台から飛び降り

玄関にパタパタと駆けるユリ。

 

 

 

 『サクラーーー。なぁーにぃーー?』

 

 

 

すると、2階からヒョコっと顔を出したサクラが両手にバッグやスカートを持ち

ユリに見えるようにユラユラ揺らしている。

 

 

 

 『ねぇ。このピンクいやつ、忘れてるよー?』

 

 

 

そう言うサクラに、ユリは笑って言った。

 

 

 

 『もう、ブランド品は要らないの。


  お人形になる必要、もう、ないからねぇ。』

 

 

 

 

ジュンヤが抱える段ボールの底が抜けそうになったのを、ユリが慌てて駆け寄り

その底を押さえた。

Tシャツにジーンズ姿の、華奢なその背中。


一瞬、強い風が吹いた。

ポニーテールにして1本に結ぶ長い髪の毛が、風になびいた。

ふと、ジュンヤを見る。

風に落ちた青々とした葉っぱが、ジュンヤの頭にひらり。

 

 

 

ふふふ。と笑って、ユリが白く細い指先で葉をつまんだ。

その薬指には、ジュンヤとお揃いの指輪が輝いていた。

 

 


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