■第8話 ミナモト家で
■第8話 ミナモト家で
自宅のリビングでソファーにふんぞり返り、サクラがテレビを見ていると
ハルキがスーツ姿のままやって来た。
『あら、珍しい。なに?こっちで食べる?』
母ハナが、ハルキに声を掛けると『おばちゃんのカレー好き。』と
食卓テーブルのイスを引き、席に着いた。
チラっと振り返りそのスーツの背中をすがめ、またテレビに戻るサクラ。
ハルキもサクラに何か言うでもなく、母ハナと談笑しながら
和やかにミナモト家特製カレーを食べていた。
すると、
2階の自室から姉ユリが下りて来た。
『ぁ。ハル・・・。珍しい~・・・』 ハルキの姿に目を細めた。
『久々、ユリの紅茶飲みたい。』
カレーを食べ終わったハルキが、ユリが淹れる紅茶をリクエストした。
ふふふ。と俯いて微笑み、ユリが紅茶ポットと茶葉を準備する。
ポットに沸騰したお湯を注ぎ、フタをして蒸らす間
頬杖ついたユリがハルキへ訊いた。
『学校はどう?サクラは、ちゃんとやってるぅ~?』
リビングへ振り返り、サクラに目をやるハルキ。
サクラはテレビに夢中なのか、この会話が聞こえていないようだ。
『・・・まぁまぁ、じぇね?』 笑う。
すると、
『”他人のふりスーパーいい子ちゃん”、やってるっつの!』
不機嫌そうにソファーに身を隠して、サクラが唸った。
ハルキとユリが目を合わせ、クスリ、笑った。
『お前さ、ハタと付き合ってんの?』
ハルキが放課後のふたりを思い出し、何気なく聞いてみる。
一瞬、ハルキを睨んだサクラ。
『なに?今日のヤフーニュースってなんにも話題ないの?』
リンコやらハルキやら、口を開けばそのネタばかりで心底うんざりする。
ユリが自室に戻り、母ハナは風呂に行ってしまって
リビングにはサクラとハルキのふたり。
スーツの上着を脱ぎ、ネクタイは窮屈そうに緩め、
ワイシャツの袖はまくって、ラグに胡坐をかくハルキ。
この時間帯のテレビは、お笑い番組が多いわりに然程面白くはなくて
リモコン片手にせわしなくチャンネルをかえるサクラが、
不愉快そうに顔を歪め、気怠そうに伸びをして言った。
『だーーーれの事も好きじゃないし。
別に、だーーーれからも好かれてないし。
その前に、どーーーーーーーでもいいし。
・・・くっだんねぇ。』
その様子を横目に、ニヤける顔を抑えられないハルキ。
『ハタは、違うんじゃねーの?』
その言葉に、再び不愉快顔を向け、チッ。と舌打ちしたサクラ。
わざと大きな溜息をついて、
『早く帰れよ。ここ生徒ん家ですよ、センセー』
不機嫌そうに2階の自室に上がっていった。
口許に手をやり、いつものスタイルで笑いを堪えたハルキが
少し、遠くを見つめ目を伏せた。