■第79話 ハルキの部屋で
■第79話 ハルキの部屋で
サクラはひとり、ハルキの部屋で勉強していた。
主がいなくなったその部屋。
ベットの上には布団が畳んで置かれ、本棚にはハルキのお気に入りが
数冊抜かれて隙間を作っている。
もういないという事実を、痛いほど突き付けられる。
机上には、サクラの中学時代の教科書が数冊積み重なり置かれていた。
化学の教科書を開くと、そこには、書き込まれたたくさんの美しい赤文字が。
(サクラ、ほんとに覚えてないの?
小さい頃、ずっとハルが勉強教えてくれてたじゃない・・・
先生になったのだって、サクラが・・・)
そう言った、姉ユリの言葉を思い出していた。
カタギリ家のリビングでは、母サトコが電話をしている。
大き目の電話声に、父サトシが顔をしかめ小さく睨み、
テレビのボリュームを気持ち大きくしてささやかな抵抗を試みる。
『うん、コッチに来てる・・・
なんか、ハルキの部屋で勉強したいって・・・』
電話の相手は、サクラの母ハナのようだ。
『サクラ、どうしちゃったの?
あーんなに勉強嫌いの、サクラが・・・
え?目標?
へぇ・・・
で。なんになるの?アノ子・・・
へぇ~・・・
まぁ、向いてるんじゃない?
アノ子らしいわ・・・
うん。まぁ、ハルキも喜ぶんじゃない?
っていうかアレかしらね?
ハルキのため・・・とか、かしらねぇ~?』
電話向こうのハナの笑い声が、サトコが握る受話器から漏れ流れた。
母親ふたりして、愉しそうに笑っていた。




