■第76話 叫ぶ声が
■第76話 叫ぶ声が
『ねぇ、サトママ・・・
ハルキって、いつ出発すんの・・・?』
何故か、母ハナも、ハルキ母サトコもサクラの前で口が重い。
この話題になると、揃って、目線をはずしたり話を逸らしたりする。
嫌な予感が走り、サクラはハルキの部屋へ駆け出した。
勢いよくドアを開ける。
すると、そこは片付いてキレイになっていた。
まるで、もうここに住まう住人がいないかのように・・・
『ハルキはっ?!』
必死の形相に、サトコが言葉に詰まる。 『学校に。挨拶行くって・・・』
サクラは休日の学校へ向けて、全力で走った。
肺が苦しくて、喉元が爆発しそうに痞えるが、駆ける足を止めようとはしない。
走り続けると、そこは。
休日も登校している部活動の生徒の姿と、その掛け声が響く校舎。
慌てて職員室へ滑り込む。
誰もいない。
更に廊下を駆け抜ける。
用務員室へ駆け込み、ハルキの所在を訊くと
『さっき片付け終わって、駅へ行った』 と。
眉間にシワを寄せ、サクラは駅までの道を駆けた。
泣きそうで涙がこぼれそうな瞳に、風が容赦なくぶつかり流れる。
(行かないで・・・
待って。
どうか・・・間に合って・・・ )
『ハルキーィィイイイイイイ!!!』
駅に、サクラが泣きながら叫ぶ声が木霊する。
その声に、ホームに佇むハルキが、振り返った。
俯いて、左手の甲を口許にあて。
そして、そっと目をあげてその響いた声の方を、ハルキが微笑み見つめた。




