■第70話 リンコの涙
■第70話 リンコの涙
リンコは学校を飛び出し、全速力で駆けていた。
息があがって苦しい。
ノドの奥が、締め付けられる。
心臓が破裂しそうに爆音を立てる。
しかし、止まらず、駆けた。
サクラの家の隣家。駆ける先それは、カタギリ家だった。
乱暴にチャイムを数回鳴らすと、年配の女性が出て来た。
ハルキの母親だろう。
その後ろに、疲れた感じのハルキの姿が見えた。
その疲れた目は、リンコを捉えた瞬間、少しだけ微笑んだ。
近所の公園のベンチにかける、ハルキとリンコ。
平日の昼間は、小さな子供を公園で遊ばせる母親の姿がチラホラと。
子供たちの無邪気な笑い声が、眩しい日差しに溶けてゆく。
気怠い部屋着のハルキは、俯いて口を堅くつぐむリンコに
缶コーヒーを渡し、言った。
『安心して。サクラはダイジョーブだから。
ちゃんと明日から、またガッコ行けるから・・・』
その声に、リンコが目を見開いてハルキを見つめる。
ハルキが目を細めて少し遠くを見ながら、やさしく呟く。
『アイツのこと、頼むな・・・
今、スーパー凹んでて。もう、手ぇ付けらんねーから。
俺カバおうとして。
アイツ、バカだから逆に墓穴掘って、
俺らんこと、堂々と言い放って・・・』
思い出し笑いするように、手を口許にあてて目を細めている横顔。
『ちゃんと報告してなかった、俺が悪いんだー・・・。一番。』
その声は、やわらかすぎて優しすぎて、リンコの胸を激しく突き刺す。
リンコが急に立ち上がった。
『ごめんなさい・・・
私です・・・
私なんです・・・。』
リンコの瞳から、幾筋もの涙がつたい落ちた。




