■第66話 一番の
■第66話 一番の
『だって、リンコがいるから他には別にいらないじゃん。』
サクラが机に片肘つきながら、私の古文の宿題をノートに写しつつ言う。
古文の授業が始まるまであと5分。
時間との勝負だった。
時間との勝負なはずなのに、サクラは然程焦ってもいない風で。
”女子は、何故群れるのか”という話になり、
『リンコだって群れないじゃん?』 と、ペンの頭でコメカミをカリカリと
掻きながらサクラは言った。
サクラには、同じ中学出身の男子の友達がいた。
毎日のように自転車に二人乗りをして帰っているようだったが、
その男子と付き合っている訳ではないようだった。
正直、サクラ自身が男子のようなものだったし
付き合っているならいるで、それについては何とも思わなかった。
サクラは、私の友達だった。
私の、一番の友達だった。
もし彼氏が出来ても、それで良かった。
だって、私は友達だから。
私は、一番の友達だから。
サクラは、
サクラは、私の、一番の・・・
(家族みたいだし、兄妹みたいだし、友達みたいなふたりでしょ?)
サクラ母ハナの言葉が甦る。
サクラと、カタギリ先生は・・・
やめて・・・
やめてよ。
家族みたいな、兄妹みたいな、恋人みたいな、
そんなポジションなんか要らない。
ただ。
ただ、”友達”は
”一番の友達”くらいは、
私にくれたっていいじゃない・・・
取られちゃう・・・
サクラが・・・
サクラが・・・アイツに・・・
アイツに、全部・・・持ってかれちゃう・・・。
暗い部屋。
パソコンのEnterキーを、無表情な目でカチリと押した。
それは、不特定多数に向けてアップされた。




