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■第64話 停電

■第64話 停電


 

    

それは夜の11時をまわった頃だった。

 

 

急にすべての電子機器が活動をやめ、部屋中が真っ暗な闇に包まれた。

自宅リビングでひとりテレビを見ていたハルキが、カーテンを開けて

外を見てみると、他のすべての家も真っ暗な様子。停電だ。


手探りでキッチンの棚から懐中電灯を出すと、ハルキはミナモト家へ向かった。

ドアのチャイムを押し、それが鳴らないことを思い出す。

ドアに拳をぶつけ、ドンドンと叩いた。

 

 

 

 『サクラーぁ?おい、ダイジョブかーぁ?』

 

 

 

すると、慎重に進み駆け寄る足音と共にドアが開いた。

その足は慌てたためか、玄関履きも履かず裸足のままで。

ハルキの姿に安心し、俯いたままそのTシャツの裾を小さく握り締める。

 

 

 

 『お前。コドモん頃から、暗いのダメだもんなぁ?』

 

 

 

頬を緩ませて、サクラの頭をガシガシと撫でると、

そのままミナモト家のリビングに上がった。

サクラもTシャツを掴んだままそれに続いた。

 

 

リビングのソファーにふたり並んで座る。

 

 

サクラは体育座りの姿勢でタオルケットにひとり包まり、顔をうずめて無言。

テーブルの上には、借りていったジャンプが数冊積まれている。

懐中電灯の心許ない灯りが、真っ暗な部屋のふたりをぼんやり照らす。

 

 

 

 『あの話さ、あんな急展開、まじビビったぁー』

 

 

 

ハルキがひとり言なのか話し掛けてるのか分からないような口調で

マンガの話をする。


しかし、サクラはやはり無言で・・・

 

 

 

 

 『あのさ。』

 

 

ハルキが暗闇をまっすぐ見据えたまま、静かに口を開いた。

 

 

 

 『お前さ・・・ 気付いてないの?』

 

 

 

その問い掛けに、サクラが微かに顔を上げた気配。

 

 

 

 『ちゃんと、目ぇひん剥いて見てんのかー?


  お前のその目は、フシアナかー?』

 

 

 

ハルキを伺うように顔を向けたサクラ。

 



 

   

 

 『気付いてないの・・・?

 


  お前、さ。  ・・・俺のこと、好きだろ?』

 

 


 

 

  

サクラがあきらかに慌てて少し体をのけ反らせた。

慌てすぎて声は出ない。

呼吸すらするのを忘れ、身を固くしている。

 

 

すると、ハルキが手の甲を口許にやって小さく笑った。

それは可笑しくて可笑しくて、止まらなくなった様に頬を緩め。


笑いながら、

 

 

 

 

 

 

 

 『ぁ、違うか。


  違うわ・・・ 俺、だ。



  俺が。 ・・・お前を、


  ・・・どーしょうもなく。 好きなんだ。』

 

 

 

 

 

 

ハルキが、そっと、サクラへ視線を向ける。

 

 

ゆっくり手を伸ばして、サクラの頭を撫でた。

 

 

そのまま首の後ろに手をやると、ぐっと胸に引き寄せ

やさしく、サクラを抱きしめた。

 

 

目を見開いて固まるサクラ。

心臓が、壊れそうに鼓動を打つ。

 

 

タオルケットに包まれて、まるで小さな子供のように

サクラはハルキに抱きしめられていた。


タオルケットからもぞもぞと手を出すと、

少し震えるその手でハルキのTシャツの裾を掴んだ。


ハルキが抱きしめる腕に力を入れ、サクラを更に包み込む。

愛おしくて愛おしくて、どうしようもなくて。

 

 

 

 

 

 『お前、イッチョマエに、イイにおいすんな?』


 『・・・うっせ。』

 


  

 

暗闇にひと粒、微かに光ってサクラの頬をおちた。

 

 


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