■第63話 ふたり
■第63話 ふたり
その日、ミナモト家とカタギリ家の両父母は、揃って仲良く温泉に行き
いつもの騒がしい家の中も、静けさはひとしおだった。
ユリもジュンヤのところへ行っていて、残ったのはサクラとハルキの
ふたりだけだった。
二人用の夕飯がカタギリ家のキッチンに準備されていた。
久々に一緒に食べる夕飯。
ラップのかかったオムライスをレンジでチンすると、キッチンのテーブルに
二人分おき、冷蔵庫からサラダの小鉢を取り出したサクラ。
『ハルキー・・・』
そう呼び掛け、右手にマヨネーズ、左手に和風ドレッシングの瓶を持ち
ハルキにそれらを見せる。
『ん~、マヨ。』
サラダにかけるそれを選び、『ついでに麦茶。』 と冷蔵庫から
出してほしいものをリクエストした。
ハルキは麦茶用のグラスを2つ掴んでテーブルに置く。
向かい合って食べる夕飯。
無言。互いの咀嚼する音だけが聞こえる。
『なんで最近あんまウチ来ないの?』
オムライスを一口大、スプーンで掬いながら、ハルキが静かに訊いた。
『いや・・・別に。』
最近はもっぱら”別に”ばかりのサクラ。
ハルキと目線を合わせようとしない。
サカキとのデート以来、ハルキを過剰に意識してしまい
なんとかそれを誤魔化そうと避けてきたのに、今日に限ってふたりきり。
『ジャンプ、暫く読んでねーだろ?読んでっか?』
ハルキもオムライスに目を落としたまま、更に続けると、
『借りてく。』 と自宅で読もうとするサクラ。
『あっそ。』
ハルキは小さく笑って、食べ終わった皿をキッチンのシンクに置くと
食器用スポンジに洗剤を垂らして泡立て、それらを洗いはじめた。
隣に皿を持ったサクラが立つ。
目を合わせようとしない。
ハルキはサクラの手からそれを受け取ると、『部屋入って持ってけ。』 と
食器洗いを引き受けて、ジャンプ持ち出し許可を出した。
『ん。』
サクラは小さく発し、パタパタとハルキの部屋へ向けて駆け
お目当てのそれを抱えて、さっさと自宅へ戻って行った。
キッチンにひとり、スポンジと皿を持ったまま、ハルキは首を後ろに反らせ
天井を眺めて大きな大きな溜息をついた。




