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■第60話 ジュンヤの決意

■第60話 ジュンヤの決意


 

 

 『ユリさん・・・?』

 

 

そのジュンヤのやさしい声が耳に響いた途端、ユリは声をあげて泣いた。

子供のように泣きじゃくっている。

 

 

 

 『ごめん、連絡するの遅くなって。』

 

 

 

なにかを考え、言葉を選ぶような息継ぎ。


その言葉に、ユリはこれが最後なのだと思った。

最後のケジメに、電話をくれたのだと。

 

 

 

すると、

ジュンヤは言った。

 

 

 

 『明日、お邪魔してもいいかな?お父さんに時間つくってもらいたいんだ。』

 

 

 

 

 

翌晩、ジュンヤがミナモト家のリビングにいた。


父コウジと母ハナ、そしてユリ。

正座をするジュンヤは、きちんとシャツを着てパンツを履き、

いつもの気怠さは無い。

 

 

 

ジュンヤが真っ直ぐ父コウジを見て、話をはじめた。

 

 

 『まず、先日はすみませんでした。


  軽率な行動だったと反省しています。

 

 

  俺は、水商売をする母親と二人暮らしで、


  家計の足しにとバーでバイトをしています。


  時給が高いというのが理由です。

 

  

  学校は今すぐにでも辞めて働いてもいいと思っていますが、


  それは母親に止められています。


  高校ぐらいは卒業するように、と・・・言われてます。

 

 

  バイトが朝4時までなので学校もいつも遅刻しています。


  このままだとやっぱり卒業も厳しくなっています。

 

 

 

  この間、お父さんに言われて、あれからいっぱい考えました。


  この先のこととか、遠い将来のこととか・・・』

 

 

 

 

ゆっくり言葉を選びながら、ジュンヤが続ける。

しっかり顔を上げ、コウジを見て。

 

 

 

 

 『・・・考えて、考えて・・・。でも。


  でも、いっぺんに、一気には全部の問題を解決できそうにありません。


  なので、ひとつずつ進んでいきたいと思っています。

 

 

  金の問題でバイトは辞める訳にはいかないので、


  店長に頼んで時間を1時までにしてもらいました。


  それで毎日、ちゃんと学校に通おうと思っています。


  ちゃんと通って、勉強もして、卒業をしようと思っています。


  勉強しながら、次の、近い将来のことを考えようと思っています。』

 

 

 

 

真っ直ぐ、父コウジから目を離さず、ジュンヤが続ける。

正座する膝の上においた拳が、更にギュっと力が入り固く結ばれる。

 

 

 

 

 『でも、それには・・・


  頑張っていくには、どうしても・・・


  どうしても・・・。


  ・・・ユリさんに・・・、


  ユリさんに。隣に、いてほしいんです・・・』

 

 

 

言葉に詰まる。涙を堪えているジュンヤ。


握り締めていた手が膝の上からラグに垂れる。

ラグを掴むように、広げた指先に力が入る。

 

 

 

 『お願いします。


  俺。絶対、頑張るので・・・


  絶対絶対、頑張る自信あるので・・・


  ユリさんと、お付き合いさせて下さい。


  ・・・お願いします・・・。』

 

 

 

ジュンヤが正座したままラグに頭を擦り付け、泣いた。

大きなはずのその肩が、小さく小さく見えるほどに震えている。


ユリが、ソファーから立ち上がりジュンヤの隣に正座した。

一緒に頭を下げる。

長い髪の毛がラグに広がり垂れる。

そんなユリの肩も震えていた。

 

 

 

 『わたしも、ちゃんとするから・・・


  だから、お父さん・・・お願いします・・・』

 

 

 

母ハナが涙で赤くなった目でチラリ見ると、コウジが顔を背けていた。


喉元に力が入って筋張っている。

きっと、泣きそうなのを堪えてる・・・

 

 

 

 『まずは、第1ステップ・・・頑張りなさい。


  定期的に。顔を見せて、報告をするのが条件だ・・・。』

 

 

 

つまりながら、つまりながら、コウジがなんとか最後まで言い切った。

 

 


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