■第6話 ハタ サカキ
■第6話 ハタ サカキ
『サクラ~。今日も、チャリ2ケツしてっかぁ~?』
帰りのホームルーム直後。
カバンにノートをしまっているサクラが、サカキの声に顔を上げる。
『トーゼンっしょ。
てか、さ~・・・本屋行きたいから寄り道、ヨロ。』
遠慮の欠片もないその言葉に、サカキがポケットに手を突っ込んだまま進み
サクラの目の前に立つ。
そしてポケットから出した片手をサクラの頭にそっと乗せた。
すると、大きなその手で頭をグリグリ鷲掴みするサカキ。
『お前には、”感謝”とか”恩義”とか、
そーゆう、美しい日本語を教えてやんなきゃな~?』
グググ・・・と掴む手に力を入れる。
ゴツい指が小ぶりな頭にめり込む。
『痛ぁああ!!やめれっバカ!!ああああ・・・』
ジタバタと暴れ、細い両腕でサカキの手を掴んで、頭から離そうとするサクラ。
少し涙目になっているサクラが目に入り、慌てて手を離したサカキ。
『わり。』 背を屈めて少し心配そうに涙目の顔を覗き込むと、
思いっきりサカキの尻をヒザ蹴りして、叫ぶサクラ。
『こんのっ馬鹿力っ!!頭悪くなったらどーしてくれるっ!!』
そんなサクラを、イヒヒ。と背中を丸めサカキが笑った。
『これ以上はナイだろ?』
サクラとハタ サカキは、中学からの友達だった。
何故か、中1~中3までずっと同じクラス。
高校まで同じ東高になり、またしてもクラスメイトに。
まさしく”腐れ縁”というやつだった。
学校帰りは、サカキの自転車の後ろに乗って帰ることが多かった。
帰る方角が一緒だったというだけで、ふたりにとってそれは
たいして特別な意味合いはなかった。
教壇に立って黒板へ向き、板書の文字を消していた担任ハルキの後ろを
サクラとサカキが通り過ぎる。
『頭蓋骨イタイから肉まんおごれー。』
『なんでだよ。2ケツのお礼してからゆえ。』
ふたり並んで教室を出ようとする背中へ、ハルキが小さく声を掛けた。
『ハタ君、ミナモトさん、さよーなら。』
すると、サカキが振り返り『センセー、さいなら。』と返した。
サクラは、ただ一瞥しわずかに会釈しただけだった。
ふたりの背中から黒板に目を戻すと、ハルキは小さく笑った。
『お前、そう言えばさ。
初日に、担任、すげー睨んでゲキってなかった?』
自転車のペダルを漕ぐサカキが、後ろに乗るサクラに訊く。
『あー・・・ちょっと知合いに似て・・・た、気がしただけ。』
本当のことはいくらサカキでも言えない。
ちょっと濁して、はぐらかした。
『ふぅ~ん・・・』
また真っ直ぐ前を向き、サカキが続ける。
『カタギリさ~、
もう、赤丸急上昇、とことんトントン登り龍~ぅ。
まぁ、あの見た目だからアレだけど・・・
化学もすげー授業わかりやすいって、評判イイらしいぜ。』
その言葉に、サクラが仏頂面をして、口を尖らす。
『アレ、が~・・・?』
その反応に、サカキが振り返った。
『なんか、お前さ。カタギリに当たりキツくね?』
『べっつにぃ・・・』
なんだか無性に腹立たしいサクラであった。