■第58話 父の言葉
■第58話 父の言葉
ジュンヤは、ユリの父コウジに言われた言葉を思い返していた。
先日、ユリに着替えを貸した日。
朝マックをして、その後もふたりでのんびりし、ユリを家まで送って行くと
もう夕方になっていた。
ユリの帰宅に、すごい剣幕で玄関から飛び出してきた父親。
朝帰りがバレ、しかも二度目だという事まで発覚してしまい
父親が出て来るまで問題は大きくなっていた。
父コウジは怒鳴りつけたい気持ちを堪え、なんとか冷静にジュンヤと
話をしようとしているのが見て取れる。
『君は、学生?昼間、どうして学校に行っていないの?』
『夜のバイト?朝までやってたら、マトモに学校なんか通えるの?』
『ユリも学生だって分かっているよね?』
『娘が帰宅しないのを心配する親の気持ち、考えたことあるかい?』
『将来のこと考えているの?目標とかないの?』
矢継ぎ早な質問。
何ひとつ、マトモな返事は出来なかった。
そんな自分が不甲斐なかった。
不甲斐なくて情けなくて、ユリにそんな姿見られたくなくて
顔を上げられなかった。
『ひとつでも答えが出るまで、娘には会わないでくれないか。』
『はい・・・。』
泣きそうになるのを必死に堪え、ジュンヤはひとり帰って行った。
その背中は一度もユリを振り返ることはなかった。
ユリはその後ろ姿を、泣きながら見つめていた。
胸が痛くて、申し訳なくて、涙が止まらなかった。




