■第54話 着替え
■第54話 着替え
『俺のTシャツと、母さんの変な服だったらどっちがいーですか?』
そのジュンヤの真剣な問い掛けに、ユリは肩を震わせて笑った。
『ぁ、やっぱ。俺のが、まだマシかな・・・』
ユリの返答を待たずに、ひとりでブツブツ呟くジュンヤ。
ジュンヤの自宅の、6帖の部屋。
ベットに腰掛けて、貸してもらえるという着替えをユリは待っていた。
ふと机の上に目を向けると、そこには”万葉恋歌集”
ユリが持っているものと全く同一のものだった。
立ち上がり、それを手に取ってパラパラと捲る。
そこには所々に付箋が貼ってある。
その内の1ページを開くと、ひたむきに女性を想う恋の歌がそこに。
他の付箋のページも同様だった。
見開きの跡がしっかり残るそれに、何度も何度も繰り返し読んだのが分かる。
ユリはそっと目を落とし、小さく溜息をついた。
ジャンヤから借りたTシャツと半ズボンは大きすぎて滑稽で
またユリは顔をくしゃくしゃにして大口開けて笑った。
すっかり濡れた髪は1本にまとめて、ポニーテールにしている。
白いうなじにどうしても目がいってしまう。
ドキドキして、一度ぎゅっと目をつぶりジュンヤは目を逸らした。
慌てて壁にかかる時計に目を遣ると、もう7時だった。
『腹、へりませんか?なんか買ってきましょーか?』
すると、勢いよく立ち上がるユリ。
そしてジュンヤの腕を掴み、引っ張る。
『朝マック!朝マック!!』 子供のような顔を向ける。
『そのカッコで、いーんですか?』
ちょっとバカにして笑うと、ユリは一瞬ジュンヤを睨み、またすぐ微笑んだ。




