■第50話 方程式
■第50話 方程式
『でも、なんで急に?』
放課後のコーヒー屋。
向かい合って座るリンコが、珍しく注文したフラペチーノを
ストローでグリグリかき混ぜながらサクラに言う。
『修学旅行以来、なんか変だったけどね、サクラ達。』
リンコは鋭い。
”ギクっ”という擬音を本当に口に出して発音しそうになる。
サクラはこの日、”サカキと付き合う事になったような感じ?”
の話をしていた。
正直、どうしてOKしたのかサクラ自身よく分からなかった。
サカキが言った”ラク”という言葉。
ラクはラクだ。非常にラク、だ。
嫌じゃないかも、と。
”ラク”で”嫌”じゃなければ、イコール”付き合う”になるのか。
そんな方程式、この間の数学補習で習っただろうか。
『あああああー・・・
数学、8点だってのー・・・』
急に首を大きく反らして天井に向け吐いた、溜息まじりのひとり言に、
『ごめん。意味わかんない。』 とリンコが首を傾げフラペチーノを啜った。
『でもさ。』
リンコが静かに口を開く。
『これで、ハタは”友達”から昇格だね・・・』
そう言う顔は、どこか機嫌良さそうに遠くを見つめていた。
『2ケツ・・・。』
サクラの机横に立って、照れ臭そうに自転車の鍵を指先でクルクル廻し
自転車二人乗りでの下校を促すサカキ。
放課後の教室。
掃除当番が机を教室後方へずらした時の、床に机脚を擦った耳触りな音に
サクラの『・・・ん。』 と小さく返した声がかき消された。
ふたり、照れくさ過ぎてどこか不機嫌そうに揃って出てゆく教室。
クラスメイトの一人から『ぉ。修旅カップル~』 と野次が飛ぶ。
『うっせ。』
『うっせ。』
同時に野次を睨み蹴散らす。
そして、少し猫背気味にふたり、下校する生徒で騒がしい廊下を靴箱へ進んだ。
すると、廊下向かいからこちらに向かって来るハルキの姿。
サクラはそれに気付かないふりをしようと、目線をはずした。
サカキは、アゴを上げ目をすがめて挑発的な顔を向ける。
ハルキも、ふたりの姿は遠くからでも気付いていた。
(なに気付いてないフリしてんだ、おい。)
ふたりとすれ違うタイミングで、サカキが大きな声で言った。
『カタギリセンセー、さよおならー。』
サクラが縮こまりながら、眉間にシワを寄せ、サカキを小さく一瞥する。
『ハタ君、ミナモトさん。さようなら。』
ハルキは至っていつも通りの飄々とした表情で、やわらかく返した。
サカキが不機嫌そうに、自転車の鍵を指先で高速回転させていた。




