■第5話 理科
■第5話 理科
サクラは先日の遣り取りを思い出し、ハルキへ向けて、ふと口にしてみた。
『ねぇ、ハルキはユリちゃんが大事なんでしょ?』
『は?・・・そう見えんの?』
『みんなそうじゃん?みんな、ユリちゃん、ユリちゃんって。』
その言葉の反面、
サクラの顔は特にそれを不満にも思っていない風で。
『なに?サクラが一番だよって言ってほしいの?』
『別に?・・・そうじゃないけどさー』
沓摺りで留まり、ドアに体をもたれ掛かって、
目線を落とし指先の爪をはじく。
そういう言い方をされると、ちょっと、なんか・・・
『確かめたいの?確かめてどーすんの?』
『・・・いい、もういい。なんでもない。忘れて』
ハルキが矢継ぎ早に浴びせる優しくない言葉に、
本当にこの話題がどうでもよくなったサクラ。
『お前さ・・・。こないだの身体測定どうだった?』
サクラを一瞥し、ポツリ一言。
『・・・なに、急に?
健康ユーリョージですよ、ワタクシは。
身長も1㎝伸びてたしねー!イエ~イっ!!
目もガッツリ見えまくりー、の!
耳もバッチリ聞こえまくりー、の!』
『おっぱい少しは増えたか?』
『死ね。バカ!』
慌てて少し猫背になり、胸元のあたりを誤魔化した。
『つか、・・・視力検査。もっかいやってもらえ。』
再び手元に目線を落として、ハルキが小さく呟いた。
ハルキは、ぼんやり子供の頃のことを思い出していた。
勉強がとにかく嫌いなサクラ。
典型的な、体育だけズバ抜けて得意な子供だった。
ハルキもユリも勉強はそこそこ出来た為、サクラのそれはひとり際立っていて。
特に、理科は全くダメだった。
しかめっ面でうな垂れ、つまらなそうに鉛筆を弄ぶ、小さい背中。
小学生のサクラに、当時、ハルキは勉強を教えた。
サクラが飽きないように、おだて、宥めすかし、時に笑わせながら・・・
幼いサクラが口を尖らせ、言った。
『ハルキが先生なら、サクラ、勉強がんばるのになぁ・・・』
化学の小テストを採点しながら、机に片肘をついたハルキが呟く。
『もっと頑張れよな~・・・』
左手の甲を口許にあて、俯き笑いながら、赤ペンで書く”28点”
そして、ミナモト サクラという名前の下に
”もっと頑張りましょう”と流れるような美しい赤文字を書いた。