■第48話 キスの味
■第48話 キスの味
それからというもの、ハルキはサクラのキスが頭を離れず、
珍しく機嫌悪くイライラが続いていた。
表に出さないようにと思えば思うほど、それは空回りし逆効果だった。
同様に、サクラもあんな現場を見られてしまって、気まずくて
カタギリ家に必要以上には行けなくなっていた。
『サクラ。今日ウチ、ハンバーグだよ。』
ハルキ母サトコの声がけにも、首を横に振って断った。
学校でも、なるべく目が合わないように目線をはずし、
化学の授業中も1時間ずっと教科書に目を落としたまま。
大好きな体育も、廊下にハルキの姿を見つけただけでミスしまくり
ハルキに話し掛けられそうになると、慌てて足早に通り過ぎた。
とある夜のこと。
ハルキがミナモト家へやって来た。
リビングにその姿がないことを確認すると、サクラの部屋がある2階に
上がって行く。
トントン。
無言で2回ノックする。
『はいよー』
そう声がしてドアが開いた。
瞬間、
ハルキの顔が目に入ると、慌ててドアを閉めようとしたサクラ。
そんな事されるのは想定内なハルキ。
素早く足を挟み込み、それを阻止して力づくで開け、部屋に入った。
『・・・。』
一瞬ハルキを睨み、しかし無言のままベットの上に体育座りをするサクラ。
ハルキがその隣に腰掛ける。
しかし、なにを話していいのか分からず、お互い黙っていた。
『あのさ。』
ハルキが口を開いた時、
『なんか言いたい事があんなら、言えばいーじゃん・・・』
それを遮って、サクラが早口で言った。
『・・・・・・・・見たんでしょ?あん時・・・』
俯いて表情は見えないが、耳がどんどん赤くなっている。
見てないと言った方がいいのか考え、
しかし、嘘をつくのはやめる。
『あー・・・ん。見た。バっっっチリ見たねぇー・・・』
ハルキが後ろに手をつき、首を反らせて溜息のように言う。
すると、
『・・・やっぱ、・・・・・・見たんだ。』
見てなかったという可能性も捨てていなかったサクラ。
消え入りそうに呟き、更に更にうな垂れる。
その小さく縮こまる姿を見ていたら、なんだか無性に可笑しくなってしまって
ハルキはぷっと吹き出してしまった。
『・・・なに味だった?』
ニヤけながら、からかってみる。
『なっ!!・・・死ねっ!!ボケっ!!カスっ!!ハゲっ!!』
ガバっと顔を上げたサクラの口から、矢継ぎ早に悪罵が溢れる。
そして、拳を握りしめてハルキに殴り掛かった。
『バーーカ!バーーーカ!!
死ねっ!この、バーーーーーカ!!!』
真っ赤になって拳を振り回すサクラを、大笑いしながらハルキは見ていた。
(やっといつも通りんなったな・・・)
『ボケっとしてっからだよ。バーカ。』
ハルキは部屋を出る瞬間、振り返ってサクラに言った。
その一瞬の顔だけ、笑ってはいなかった。




