■第41話 ユリの涙
■第41話 ユリの涙
『ねぇ、どうしたの・・・?』
サクラが学校から帰りリビングに進むと、入れ違いにユリが泣きながら2階へ
駆け上がって行った。
ソファーには怒りを堪えた母ハナが、顔を赤くして座っている。
父はまだ帰宅しておらず、母とユリふたりの間で何かあったという事のようだ。
『ちょっと隣行ってくるから、ごはん自分であっためて食べなさい。』
そう言うと、母ハナはエプロンを少し乱暴にはずして出て行った。
普段あまり激しく怒ったりしない母。
あんな顔、あまり見たことがない。
理由はどうあれ、泣いていたユリが気にかかったサクラ。
慌てて2階へ駆け上がり、自室向かいユリの部屋の前に立ち、
小さく2回ノックする。
『ユリちゃ~ん・・・ねぇ。大丈夫ぅ・・・?』
返事はない。
しかし、閉ざされた部屋からは微かにくぐもった泣き声が聞こえる。
『ユリちゃん・・・ごはん食べたのぉ?
あっためて、ココに持ってこようかぁ~?』
やはり返事は無かった。
どうしたもんかと困り果て、廊下に体育座りになって縮こまる。
その時、小さく車庫のシャッターが開く音が聞こえた。
ハルキが帰って来たようだ。
少しして、その足音がミナモト家に近付いて来た。
玄関のドアが開き、スーツ姿のハルキがそのまま真っ直ぐ階段を上がって来る。
ハルキは、ユリの部屋の前で体育座りをする心細げなサクラに一瞬目を遣り
その部屋のドアを軽くノックした。
サクラも立ち上がり、様子を伺う。
『ユリ?・・・俺。』
すると、すごい勢いでドアが開き、ユリがハルキに抱き付いた。
その顔は泣きはらして目元が真っ赤になっている。
『ハルぅ・・・』
呟いて、再び涙の粒を落とした。
ハルキはなにも言わず、強く抱き付くユリの背中をトントンと叩く。
ユリはハルキの首元に顔をうずめ、小さく小さく震えて泣いている。
その光景を、サクラは息を止めて見ていた。
瞬きが出来なかった。
それを見ていたら何故か、サクラまで泣きそうになって。
ハルキが一瞬サクラに目を遣り、やれやれといった風に小さく溜息をつく。
サクラが俯き、ふたりから目を逸らす。
耳が真っ赤になり、心臓は高速で打ち付ける。
居場所がない、そんな気がして居ても立っても居られない。
サクラは廊下で抱き合うふたりの脇をすり抜け、走って1階へ下りて行った。
するとそのまま玄関を出て、飛び出して行ってしまった。




