■第33話 買い物
■第33話 買い物
その日、ハルキはユリに頼まれて買い物を付き合う事になっていた。
いつまで経っても車に乗り込まないユリを、ハルキは痺れを切らして
ミナモト家玄関まで迎えに行った。
『まだかー?ユリー・・・』
呼び掛ける声に、慌ててユリが2階の自室からパタパタ駆けて来た。
『ごめぇん・・・』
シューズラックからピンクのパンプスを取り出し置くと、ハルキの肩に手をおき
片足ずつ履くユリ。
いちいち艶めかしい所作。
リビングからひょっこり顔を出したサクラが、それをぼんやり見ていた。
『ねぇ、デート?』
サクラが声を掛けると、
『サクラも行くぅ~?』 ユリがやさしく微笑んだ。
『今から準備とかマジ勘弁。』 ハルキがそれを冷たく遮る。
『それくらい空気読めるっつーの!!』
サクラが不貞腐れてリビングに戻って行った。
車に乗り、ハルキとユリふたりで出発した。
休日の街は混んでいて、駐車場は何処もいっぱいだった。
チラっとハルキを覗くユリ。
『もっと優しくしてあげなきゃダメよぉ・・・』
ユリの言葉に、
『気にしてねーだろ。』
と、ハルキは真っ直ぐ前を見たまま運転する。
『絶対、デートだと思ってるわよぉ・・・?』
髪の毛のカールした毛先を指先で弄びながら。
すると、
ユリを一瞥し、ハルキが小さく呟いた。
『駐車場あいてねーえなぁ・・・』
デパートの紳士服売り場に、ふたり。
ユリは嬉しそうにネクタイ売り場へ駆け出した。
『ハル、早くぅ』
ハルキをモデルに、首元に次々とネクタイを合わせてみるユリ。
頬はほんのり高揚し、目を細めて微笑む顔は、渡す相手の事だけを
考えているようだった。
その時、
『先生・・・』
掛けられた声に振り返ると、リンコがいた。
隣に立つユリをまじまじと見つめ、まるで汚いものでも見るかのように
ハルキから目を逸らす。
『ぁ、キノシタ・・・これ、サクラの姉ちゃん。』
その声に、『サクラのお友達ぃ?』 ユリが微笑む。
『姉のユリです。サクラがお世話になってます・・・』
そう言うと、ユリは肩をすくめ小首を傾げて、リンコに向かって再び微笑んだ。
リンコはひとり冷静に、ふたりを見ていた。




