■第32話 昼食
■第32話 昼食
その日以来、ユリは毎日昼食時には屋上へやって来るようになった。
イスにふたり並んで座り、ジュンヤはコンビニのパン、
ユリは持参する弁当を食べた。
ジュンヤがユリをそっと盗み見る。
襟元に白いレースがついたブラウスに淡いピンクのスカート、
その膝の上にハンカチを広げ、弁当を乗せている。
色とりどりのおかずと、小さな手毬おにぎり。
風が強く吹いて、ユリの長い髪の毛がジュンヤの肩にかかった。
毛先から香るやわらかな香りに、胸が締め付けられる。
そっとそれを耳にかけ、眩しそうに目を細めるユリ。
『ウインナー好きぃ?』
ユリが小首を傾げて、急に訊いてきた。
『ぇ?あぁ・・・はい。』
そうジュンヤが返すと、『ん。』 と箸でつまんだタコの形のウインナーを
ジュンヤの口許に差し出したユリ。
目を見開いて、固まった。
耳がジリジリする音が聞こえる。
死にそうに照れくさくて、差し出されたそれを指でつまみ
『どうも。』 と呟き口に入れた。
ユリはそれについて、なんとも思っていないようだった。
微かに鼻歌をうたって、遠くを見つめている。
ふと見上げると、空には一面のおぼろ雲。
『ねぇ知ってる?
おぼろ雲は、雨の前兆なのよ・・・』
切なげに眺めて、ぽつりユリは呟いた。
『ひさかたの 天飛ぶ雲に ありてしか
君を相見む おつる日なしに』
俯く、ジュンヤ。
胸が焦がれて、痛みを増した。
握り締めた拳が、やり場のない想いに小さく震えていた。




