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■第31話 恋歌
■第31話 恋歌
『好きな歌、あるの・・・?』
少し首を傾げ、隣に立つジュンヤに微笑みかけるユリ。
そして、ピンク色の唇で小さく呟いた。
『春雨の 止まず降る降る わが恋ふる・・・』
すると、
『・・・人の目すらを 相見せなくに。』
ユリが呟いた上の句に、ジュンヤが続いた。
目を見張り、パッと表情を明るくするユリ。
両手の指先を合わせ顔の前でクロスし、喜びを隠せない様子で。
その顔を見ていたジュンヤは、少し俯いて考え込んでいた。
”春雨の 止まず降る降る わが恋ふる
人の目すらを 相見せなくに”
(春の雨が降る、雨が降る
恋するあの人に逢わせてもくれない
冷たい春の雨が降る、雨が降る)
(あの人の事かな・・・)
あの雨の日、
スプリングコートの肩を濡らし小さく震えていた姿を思い出す。
ジュンヤの胸が、切なく音を立てて痛んだ。




