■第3話 ユリ
■第3話 ユリ
サクラが自宅に戻ると、母ハナと姉ユリが食後のお茶を飲んでいた。
『サトちゃん、ハンバーグにしてくれたんだって~?』
母ハナの言葉に、
『遠慮しなきゃダメよ、少しは』 姉ユリが困った顔を向け、続いた。
サクラは姉ユリを、片肘をついてまじまじと眺めていた。
長いツヤツヤの髪の毛は、ふんわりカールが掛かり
すっと伸びる背筋にやわらかく垂れる。
淡い花柄のワンピースがユリらしい。よく似合っている。
湯呑を包む手は白く細くて、ピンクの控えめなフレンチネイルが輝いている。
『・・・なにぃ?』
見られている気配にそう優しく向ける目は、実の妹がウットリしてしまう程。
『教育実習、いつからだっけ?』
ユリが出身高校へ実習に行くのが、そろそろだった気がして、訊ねた。
『来月ぅ・・・』
目を細めて微笑むユリ。
その麗しさったら。
同じ姉妹なのに、こうも違うか・・・
何をどうして自分はこうなってしまったのか、考えあぐねるサクラ。
『ユリちゃん聞いてよ~・・・
ハルキが担任になったんだよー・・・有り得ないっしょ。』
そのサクラの言葉に、
『こないだ話してたじゃない?』 と、再び麗しくユリは微笑んだ。
サクラとユリは4才違いだった。
大学で古文の教職課程を専攻するユリは、
来月から出身高校へ教育実習へ行くことになっていた。
(ユリちゃんみたいな教生先生がいたら、男子はたまんないだろうな・・・)
そう頭をかすめ、サクラが言う。
『ユリちゃん!あんまし”麗しオーラ”出しちゃダメだよ!』
真剣な表情を向けるサクラに、眩しそうに目を細め微笑み、首を傾げるユリ。
『ダメだってばー!そんな可愛い顔しちゃー!!』
おっとりしたユリからダダ漏れする、麗しオーラ。
実妹として心配でならない。
『そんなだと、ハルキが心配するよっ?!』
サクラが口にしたハルキという名前に、ユリが首を傾げた。
『なんで、ハル?』
相変わらずやわらかく微笑むユリへ、サクラが口を尖らして返す。
『ユリちゃんがそんなだと、ハルキ、気が気じゃないでしょー!
ハルキはユリちゃんの事、好きなんだからー・・・』
妹のその真剣な言葉に、『そうなの?』と小首を傾げるユリ。
『そうなの??』 母ハナも首を突っ込んだ。
『そうなのか??』 父コウジも、パチパチせわしなく瞬きをした。
『・・・ぇ?』
その家族の反応に、サクラは戸惑いを隠せなかった。
『ねぇ、サトママ。
ハルキとユリちゃんって結婚しないの?』
先日のミナモト家一同の反応に、ハルキ母サトコへさぐりをいれてみるサクラ。
『え?そんな話になってんの?あのふたり』
『いや・・・知らないけど。そうなるんじゃないの?』
何故みんな気付いていないのか、さっぱり分からない。
『そうなの?』
『え?違うの?』
なんだか噛み合わない会話。
『・・・意外だわ、そうなったら』
『意外?どこが??』
『だって・・・まぁ、いいけど。』
サトコが濁して、うやむやなままフェードアウトした。
昔から、ユリはみんなに心配され、気使われ、愛されていた。
ハルキは、分かりやすくユリに優しく、帰りが遅くなったユリを
車で迎えに行ったりするのは日常茶飯事だった。
サクラに対しては当たり前に素っ気なく、ぞんざいな扱いだった。
しかし、そうゆうもんだと思っていて、それに関して特になにも思っては
いなかった。
(あたしが男だったら絶対ユリちゃん放っとけないもんな~・・・)
サクラは姉ユリが大好きだった為、張り合い競う相手ではなかったのだった。




