■第24話 教育実習生
■第24話 教育実習生
午前の授業が終わり、昼休みを告げるチャイムが鳴ると、肩掛けカバンから
コンビニ袋を取り出し、ジュンヤは校舎奥の階段へ向かった。
その階段を上がると屋上へ出ることが出来る。
まだ春先で少し肌寒かったが、学ランは教室においてきていた。
襟元を少し開けた学校指定のカッターシャツのまま、
少し猫背に進む、いつもの場所。
四方囲まれた柵にもたれかかり、そこから駅前の街並みを見ながら
ぼんやりと、コンビニで買った味気無いパンを口に入れた。
今日も天気が良くて、青空に浮かぶ白い雲が嫌味なほどいい景色。
片手にもつ缶コーヒーで、ノドにつかえた乾いたパンを流し込んだ。
『ぁー・・・タバコ吸いてぇ・・・』
食後の手持無沙汰で、習慣になっているタバコを体が欲するも
さすがに校内ではマズい。
右手の中指と人差し指が、タバコを求めて歯がゆく擦れ合った。
昼休みを終えるチャイムが響き、階段を下りて教室まで廊下を進んでいると
遠く、国語教師と女性が向こうから歩いてくるのが目に入った。
(ぁ。靴箱んトコで見かけたヤツか・・・)
然程気にするでもなく、ジュンヤは猫背で俯き、ポケットに片手を突っ込んだ
姿勢で気怠くその2人と通り過ぎた、その瞬間。
振り返り、
その人を、見た。
段々遠くなる、華奢なその背中。
淡い色合いの上品なスカートを身にまとい、ふんわり毛先にカールが掛かった
長い髪の毛はハーフアップしてリボンバレッタでまとめてある。
シンプルなピンクベージュのパンプスにもリボンが。
そして、なにより彼女からやさしく流れる、あの香り・・・
甘くてフルーティーなあの香りの彼女を、間違えるはずがない。
ジュンヤはその場に固まって動けなくなっていた。
どんどん小さくなるその背中を、ずっと見つめていた。
少し遅れて教室に戻り、隣席の名前も知らないヤツに彼女のことを聞き出す。
普段、しゃべったこともないジュンヤに急に話し掛けられ、そのクラスメイトは
たじろぎながら、今日から来た教育実習生だと教えてくれた。
『名前は・・・?』
ジュンヤの鬼気迫る感じに、そのクラスメイトは気圧されながら
『ミナ?ミナモト・・・』 下の名前が出て来ない。
『ユリ?』ジュンヤの言葉に、『ぁ、そうそう!ミナモト ユリ!』と
スッキリした表情を向けた。
今日から2週間の教育実習生で、担当は古文。
今朝の全体朝礼で紹介・挨拶があったようだが、ジュンヤは出席していないので
知る由もなかった。
普段一言も口をきかないジュンヤがあまりに矢継ぎ早に話し掛けてくるものだ
からそのクラスメイトはもう少し会話を続けてみた。
『ちなみに、ウチのクラスの担当らしいぜ。
朝のホームルームん時、担任の隣にチョコンと立ってたから。
帰りも来んじゃねー?』
その言葉に、パッと表情が明るくなるジュンヤ。
その顔を見て、クラスメイトが半笑いで言った。
『なに?知り合い・・・?』
そっと机においた手元に目を落としてジュンヤはその問いには返事しなかった。




