■第2話 ハルキ
■第2話 ハルキ
カタギリ家の食卓につき、サクラがハンバーグを頬張っていると
外のシャッターがガラガラと開く音が聞こえた。
続いて車のエンジン音。バックで車庫に入れている様子。
ハルキが帰宅したようだ。
瞬時に立ち上がり、箸を咥えたまま玄関へ走るサクラ。
上り框に仁王立ちして、車から降りてくるハルキを待つ。
ドアを開け玄関に入ると、目の前に、いきり立つサクラを捉えるハルキ。
しかし、まるでサクラなど目に入っていないかのように、横を擦り抜け
家にあがると自室へ向かってゆく。
その姿に更に苛立ち、バタバタと後を追う。
ハルキが後ろ手に閉めようとした部屋のドアを、引っ張りこじ開けるサクラ。
そんなサクラを気にもせず、ハルキは気怠そうにスーツの上着を脱ぎ、
ネクタイをはずしワイシャツを脱ぎ、ズボンもおろして、一式をベットの上に放った。
トランクス姿のハルキへ、サクラが言う。
『な、ん、で。ウチなのよっ?!』
『まぁ・・・なんでって言われてもなぁ~?』
部屋着のハーフパンツとTシャツを着込み、脱いだシャツをサクラに渡す。
スーツの上下をハンガーに掛けながら、
『俺が決めることじゃないしなぁ~?』
右手に握りしめる箸を振り回し、地団駄を踏みながら、
部屋を出て洗面所に向かうハルキの後を、尚も追う。
洗濯物カゴに、ハルキから渡されたワイシャツを乱暴に放る。
手を洗いうがいをするその飄々とした横顔へ、まだ続ける。
『100歩譲って東高はいいとして・・・
いや、全然、いくはないんだけど。
担任って有り得なくない?ねぇ、有り得ないでしょっ?!』
ガラガラガラガラガラ・・・ペッ。
うがいするハルキの喉仏が小さく振動する。
シュッとした喉元。
筋張っていて引き締まっている。
『俺が決めた訳じゃないしなぁ~?』
タオルで口許を拭いて、サクラの言葉をさらり受け流しキッチンへ向かった。
食卓テーブルに並ぶハンバーグを見て、母サトコの方を向き
『あっちは?今日、なに?』 訊く、ハルキ。
『ハナのトコは、筑前煮。』 サトコの返答に、ハンバーグへ向き直ると
『じゃ、ハンバーグでいっか。』 と席に着いた。
ふくれっ面でハルキの目の前の席に座ると、
箸で大きめにカットしたハンバーグを口に頬張り、『つめた。』 と
一言文句を言った、サクラ。
サトコがその皿を横から奪うと、ふんわりラップをかけてレンジへ入れた。
”あたため:40秒”
スタート。
チーーン♪
温まった合図に、サクラは立ち上がりレンジから皿を出した。
『ねぇ、酷いと思わない~?サトパパぁー・・・』
困った時はいつも、無条件に甘やかしてくれるハルキの父サトシへ擦り寄る
サクラ。
サクラが可愛くて仕方ないサトシは、然程、話の流れも分からないままに
『ハルキが悪い!』と、確かな口調で加勢した。
すると、再度、ペシッとサクラの頭を叩いたサトコ。 『痛っ。』
それは、まるで母娘のようで。
そんな様子を、サトシとハルキが呆れた感じで頬を緩めて見ていた。
ハルキの部屋に、サクラとふたり。
ベットに腰掛けいまだ不機嫌な制服姿のサクラへ
キャスター付のイスに座り、クルクル回りながらハルキが言う。
『ガッコでは、俺は ”センセー”だからな?・・・意味わかるよな?』
チッ。
舌打ちするサクラ。
『はいはい。カタギリセンセー・・・』
不満そうに顔をしかめるサクラ。
『そう。俺は、”カタギリセンセー”で、お前は”ミナモトさん”。
間違ってもハルキって呼ぶなよ?』
『・・・分かってるってば、うっさいな・・・』
その不満気な横顔を見て、ハルキが可笑しそうにケラケラ笑った。