■第19話 心配
■第19話 心配
『おー、やっとお出ましかー』
職員室から戻ると、サクラの席に勝手に座り、背もたれに体重をかけて
イスの前脚を浮かせユラユラ揺れているサカキがいた。
『ダイジョーブなのか?』
『ぉー。』
先程のハルキの事でまだ機嫌が悪い、サクラ。
『つか、いま、ドコ行ってたの?』
『ぁー・・・担任に。アイサツ。』
その”担任”という言葉に、サカキが少しだけ目線をはずした。
(触んな。)
担任から確かに言われた、その言葉。
サカキは気になって仕方がなかった。
普通じゃない、そう思っていた。
おまけに、一生徒を名前で呼び捨てするなんて。
赴任したての新参者が。古株ならまだしも。
『・・・お前、さ・・・』
言い掛けたところへ、教室中に始業のチャイムが鳴り響いた。
教室のドアが開く音がして、その、担任ハルキが教壇に向け進む姿が
サカキの目に入る。
咄嗟に、サクラの目線を確かめようと盗み見た。
しかし、サクラは不機嫌そうに伸びをしただけで、ハルキに目を向けては
いなかった。
ふと、リンコと目が合ったサカキ。
リンコも同じように、サクラの目線を注視していたのだった。
ふたりの、言葉にならないモヤモヤした感じが、空を彷徨っていた。
『ねぇ、サクラ。今日、帰りってちょっと時間ある?』
リンコが昼休みに、訊いた。
玉子焼きを頬張りながら、『んー』 と返事し弁当に集中するサクラ。
リンコが斜め前のサカキを『ねぇ、ハタ。』 と呼び掛け、
『サクラ。帰り、借りるから。』 と無表情に言った。
『ん。』とサカキは一言返し、
『・・・てか、借りるとか何?』一人で赤くなり口ごもった。
そして、放課後。
リンコがサクラと教室を後にしようと、教壇の前を通った、その時。
『先生。』
少し硬い声色で、リンコはハルキに呼び掛けた。
ハルキがその呼び掛ける方へ目線を向けると、その隣にサクラ。
瞬時に目を逸らして、返事をする。
『どうしました?キノシタさん』
すると、
『さようなら。』
リンコはただそう一言呟いた。
しかしその目は、なんだか不気味な程に感情が無かった。




