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■第18話 登校

■第18話 登校


 

 

サクラはその日、1週間ぶりに学校に登校していた。

 

 

急性虫垂炎のため授業中に倒れ、そのまま1週間の入院生活。

退屈で退屈で、逆に病気になるのではないかと危惧した程だった。


なんだかやたらと久しぶりに感じる朝の教室の引き戸を開けると、

まだ登校には疎らなクラスメイトの姿。

 

 

 

 『あ!サクラ』


 『サクラ!ダイジョーブ?』


 『ちょっと、もう平気なの?』

 

 

 

女子から掛けられる矢継ぎ早な言葉に、照れ臭そうにペコリと返す。

 

 

 

 『ぉ。ミナモトだ。』


 『今日からかー。』


 『屁ぇ出したかー?』

 

 

 

男子から掛けられた予想通りの声に、『うっせ。ボケ!』 と一瞥し睨んだ。

 

 

 

 『おはよう、もう平気?』

 

 

近寄り、声をかけるリンコ。


すぐさま見舞いの礼を言うサクラ。

するとリンコは、入院中に写していたノートのクリアファイルを差し出した。

 

 

 

そして、何処となくぎこちない笑顔で言う。

 

 

 

 『担任、心配してたんじゃない?職員室に先に挨拶行ったら?』

 

 

 

サクラはその助言に、少し首を傾げ考え込んだ。


ハルキとは実際、毎日顔を合わせていたけれど、

”普通”なら、助けてくれた教師にまずは挨拶に出向くものかもしれない。


机の上にカバンを置くと、サクラは再び教室を出て職員室へ向け廊下を急いだ。

 

 

 

朝のホームルームが始まるまであと20分はゆうにあった。

職員室は、いろいろな準備をする慌ただしい姿やら、のんびり自席でお茶を

すする姿、プリントをめくり読み込む姿も。


奥の一角の席に、その背中があった。

日当たりが良すぎて、少し居心地が悪そうに見える。

しかし、机上はきちんと整頓されハルキらしさがよく見て取れる。


『失礼シマース。』 と入り口で誰にと言うでもなく声を掛け、進む。

サクラに気付かず、化学の専門誌をめくっている横顔に向け、

コホン。と咳払いした。

 

 

 

 

 『カッタギリ センセー、その節はアリガトー ゴザイヤシター。っと』

 

 

 

ハルキに言う。


キレイな姿勢でイスに掛け、雑誌に目を落としていたハルキが、

俯き笑いを堪えながら視線をサクラへ流した。

 

 

 

 『もう大丈夫なんですか?ミナモトさん』

 

 

 

そう担任面するハルキの目の奥の奥が、嘲笑しているのが分かる。

そして続ける。

 

 

 

 『変なガマンなんかしないで下さいね。』

 

 

 

そう言うと、ほんの少しだけサクラへ体を寄せ小さく耳打ちした。

 

 

 

 『屁ぇ、出した?ガマン出来ずに・・・』

 

 

 

左手の甲で口許を押さえ、肩を震わせて笑っている担任。

可笑しくて仕方ない様子が、真っ赤になってゆく耳でよく分かる。

 

 

その顔を、不機嫌そうに睨み、サクラは唇を極力動かさないよう低く呟いた。

 

 

 

 『コロスぞ。』

 

 

 

一言唸るように吐き捨て、他からは見えない様にハルキの右足を

思いっきり踏みつけて、サクラは職員室を去って行った。

 

 

 

 

 『痛っ・・・』

 

 

顔をしかめ、体を屈めて右足の甲をさすりながら、誰からも見えない様に

顔をくしゃくしゃにして、ハルキが笑った。

 

 


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