■第17話 車
■第17話 車
『ハルぅ・・・もう寝てた・・・?』
深夜1時。
自室のベットに横になり、ジャンプを読んでいたハルキのケータイに着信が。
『今、どこ?』
一言呟き、ハルキはパーカーを羽織ると、車のキーを掴んで車庫に向かった。
自宅から30分かけて、ネオンが光る繁華街へ向けて車を走らせた。
騒がしく煌めく街角にある、24時間営業のドーナツ屋。
窓側の席に、ひとり、両手でカップを包むユリの姿。
そのすぐ脇に停車して、クラクションを2回鳴らすと、そっと顔を上げ
小さく手を振って情けない顔で微笑み、小走りで店を出て来る。
『・・・ごめんねぇ。』
申し訳なさそうに、ハルキに呟き助手席へ静かに座った。
その膝の上には、星のスタッズが付いた淡いピンク色のトートバック。
高価なブランド品だと一目で分かる。
『タクシーぐらい乗せてもらえば?』
そのバックを横目に、ハンドルを握るハルキ。
『ごめん。』尚も続けるユリに、
『いや、そーじゃなくて。
俺が迎えに来ることが、どーこーじゃなく。』
運転するハルキの横顔を、静かに見つめるユリ。
『ちゃんとタクシーぐらい乗せて帰してくれる奴じゃなきゃ、さ・・・』
そのハルキの言葉に、ユリは小さく、ふふふ。と笑った。
それはどこか諦めたような、悲しい色を含んでいた。
静かな車内。
FMラジオの洋楽が、小さく小さく流れているだけだった。
『ねぇ、サクラがね。
ハルはわたしの事が好きなんだって言ってたわよ。』
可笑しそうに肩をすくめてユリが目を細める。
『そうだったのぉ?』 ハルキの横顔へ向けて、イタズラに笑う。
『アイツ、馬鹿じゃん?』
ハルキがニヤリ笑う。
左手甲を口許にあてて、可笑しそうに尚も笑うハルキに、ユリが言う。
『あの子・・・
子供の頃から、ほんとちゃんと前、見ない子よねぇ~』
『そのくせ視力、どっちも1.5だって。
こないだ、踏ん反り返って言ってたぞ・・・』
ふたりで声を上げて、笑う。
『可愛いよね。』 ユリが呟く。
そして、
もう一度、やさしく呟いた。
『可愛い、でしょぉ・・・?』
『視力検査、デっカい病院でやれ。ってな?』
目を細めて微笑んだハルキの顔を、対向車のヘッドライトが優しく過ぎた。




