二通目 ☆
小野妹子様へ
無事で何よりだ。折角順調に行っているのだから、物足りないなんて言わない。貴方が無事であることが一番なのだから。
貴方も隋へ行くのは恐ろしかっただろう? その仕事を押し付けてしまって悪いと思っている。そんな私に対して、この様な手紙を書いてくれてとても嬉しい。
隋のことなんて正直、私にとってはどうでもいい。それよりも、貴方のことを沢山教えて欲しいと思う。貴方の色々なことを、教えて欲しいと思う。
言葉が伝わらないと言うのは不便だな。それでも理解の早い貴方なら、きっとすぐに隋の言葉もわかるようになるであろう。
くれぐれも、怪しまれるような行動はしないように。隋の人々は言葉だけでなく、きっと考え方も異なっている。言動は慎重に、慎重に。貴方の安全こそ何より大切なのだから。
受け入れて貰えたのなら、それで一安心だな。貴方の美貌があれば、ある程度それだけで話は通るんじゃないかと思う。その点では、貴方は使者として適任なのではないだろうか。
出来ればでいいが、隋の絶品料理を倭に戻ったら作って欲しい。それと貴方は『ここならば、僕は相当美しく見える』と書いたね? 隋でなくとも、貴方は美しい人だ。貴方には、自分がいかに人を魅了しているかを自覚して欲しい。
だから、隋に住むなんて言わないで欲しい。それか、貴方が隋で待っていてくれるなら私も隋へ行く。私だって特に郷土愛など感じぬし、勿論豊かな国に住む方が望ましい。
しかし隋へ行くのはそう簡単ではない。貴方が帰らないと言うならば行くけれど、帰れるようにしてくれ。
倭に帰って来てくれ。私の元に来てくれ。
私にだけ手紙を送ってくれるだなんて、そんな嬉しいことを言って。仕事の合間に無理しない程度にで良いから、貴方のことを私に教えて欲しい。
離れ離れなのは寂しいけれど、手紙でのやり取りがあれば少しは楽になると思うから。私を救うと思って、手紙を送って来て欲しい。
これが貴方の求める正しい答えなのかはわからない。
こんな手紙では、貴方の胸を打つことは出来ないであろう。
それでも、間違いではないと私は信じている。だって、正直な気持ちを書いたのだから。
ご褒美、楽しみにしている。お仕置きも楽しみにしている。
これこそ私の気持ち、本心だ。
恥ずかしいけれど、貴方が勇気を出してくれたので私も勇気を出せた。ありがとう。
気持ち悪いと思うかもしれないけれど、これからも手紙を送って来て欲しい。
聖徳太子