一通目 ☆
聖徳太子様へ
無事、隋に辿り着くことが出来ました。今のところ、順調すぎて物足りないくらいです。
報告が遅れてしまい申し訳ございません。
長い船旅の疲れで、報告することをすっかり忘れていました。それでも先輩にだけはすぐ無事を伝えたくて、こうして初めに書かせて頂きました。
他にも勿論報告の手紙は書きます。
それでもあなた宛の手紙には、自分のことを書いても宜しいでしょうか。
隋の様子は、上の方々への手紙で書きます。他の方と一緒に状況は伺って下さい。
異なる言語を使っているようで、言葉が通じないのです。
隋の方々としては、僕のことを怪しい者と判断して当然です。実際、辿り着いたけれど囚われてしまった方もいらっしゃると仰っていたではありませんか。
しかし僕は快く受け入れて頂きました。その理由がすごいのです。
外見だそうですよ。
「倭から参った」と言う言葉も、すぐに信じて頂けました。
隋は素敵な場所です。
そしてここならば、僕は相当美しく見えるらしいですよ。突然訪れたのに、歓迎して頂けました。美味しい料理だって振る舞って頂けましたよ。
このまま隋に住んでもいい、そう思えるほどです。郷土愛も感じませんし、隋の方が全てが豊かです。文化も工業も農業も、倭の国よりずっと豊かです。
それでも僕は帰りたいと思っています。その理由はわかりますか。
わかりますよね。わかって下さい。
あなたにも僕と同じ気持ちになっていて欲しいのです。もしわかって下さらないのならば、僕は諦めます。
しかしわかって下さったならば、あなたを信じます。あなたにだけ、僕からの手紙を送り付けてやります。
どうでしょうか。
正しい答えを期待しています。
僕の胸を打つような、素晴らしい答えを期待しています。
くれぐれも、間違いだけは出さないようにして下さい。
正しい答えにはご褒美を授けます。間違った答えには、勿論お仕置きしてあげます。
楽しみですね。
もし少しでも好意があるなら、返事を貰えたりしないでしょうか。先輩の忙しさは十分理解していますが。
僕の為に時間を割いたりして下さる、優しい方だと信じています。気持ちに正直になれる方だと信じています。
僕は知りたいんです。先輩の気持ちを、本心を。手紙だからこそ言えると言うような、心の奥に眠る気持ちを。
僕のこの手紙だって、勇気の結晶です。この誠意が、先輩にも伝わると嬉しいです。
宜しくお願い致します。
先輩のことを心から想っている小野妹子より