第六章 無口な女性は熱帯林を踊る
熱帯林の中で司は海好人に薬草の種類と特徴を教えた。
「分かった。じゃあその白い花を咲かせる薬草を探せばいいんだな?僕が頑張ればすぐに見つかるよ。二手に別れて探そう」
「いいけど怪我したりするなよ」
「気を付けるんだよ、海好っちゃん」
「うん。気を付けるよ」
海好人は一人まだ行った事のないガーディニア島の山奥へ走っていった。そしてしばらくしたところで事態に陥ってしまう。
「うわっ!」
海好人が走って右足を下ろした途端、狩りのために誰かが仕掛けた罠にかかってしまい、宙吊りになって熱帯林の中に留まってしまった。
「誰か―!助けてくださーい!」
海好人が叫んでも誰も返事をしなかった。
「おーい!」
もう一度叫ぶと、何やら足音がしたそれは少しずつ大きくなっているので、こちらに向かってきていると推測した。しかし、これは人間の足音ではなく、どうやら四本足の動物の足音で複数匹でこちらに向かってくると海好人は思った。
「一体なんだ?」
海好人がそう思ったのもつかの間、足音の正体が姿を現した。それは二本の鋭い牙のあるイノシシだった。海好人はイノシシのテリトリーに入り、イノシシ用の罠に引っ掛かったのだ。
「うわっ!どうしよう」
激しく興奮するイノシシを前にして海好人は何も出来ず、もうだめだと思った。その時、熱帯林の中から、何かが気の間を移動しながらこちらに向かってくるのを感じた。木の葉が揺れる音がかなり速いスピードで海好人の方へ迫ってきた。
「今度は何だ?」
海好人がそう思った瞬間にその正体が現れた。
日に焼けて褐色の肌をした若い女性が緑色の髪をたなびかせて樹木から垂れているツタを使って熱帯林を移動してきて、海好人を片手で抱っこして罠から助け出した。
海好人は何も言わずその女性のたなびく緑髪のポニーテールを見ていた。女性は何も言わず海好人を抱っこしたまま、その場から離れた場所に連れて行き、海好人を降ろした。降ろされた海好人は、彼女の全身を目のあたりにした。彼女は緑色に褐色の肌、緑色の瞳に少し筋肉のついた引き締まった体格をしており、若さは二十代後半くらいの若さで白いシャツと紺色のズボンの裾を膝まで曲げ、南国で動きやすい服装をしていた。
「マハロ」(ありがとう)
海好人は使い慣れていな亥現地の言葉を使い、恥ずかしそうにお礼を言った。すると、女性は自分が頭に載せていた白い花の咲いた植物の冠を海好人の頭に載せ、走って熱帯林の奥へと消えた。
「一体なんだったんだろうあの人は」
海好人は女性の走って行った方をしばらく眺めていると、そこへ司と金が来て海好人と合流した。さっきの女性は司と金の来る道を先回りして海好人を降ろしていたのだった。
「お、海好人じゃないか」
「海好っちゃん、その花冠はどうしたんだい?」
「あ、これはこの島の人から貰ったんだ」
「へぇー、貰ったのか。でも何で冠?」
そう言いつつも二人と一体は四神丸に戻ったのは午後四時頃であった。ガーディニア島は夕暮れで少し空は紺色になりかけていた。
「ところでお前のかわいい燕天狗ちゃんは?」
はっと海好人は燕華のことを思い出した。
「そういえばさっきから静かだと思ってたんだ」
ガーディニア島では燕華を呼ぶ方法がない。なので、海好人は燕華を探しに行った。だいぶ日が傾き、夕日が島を照らしていた。熱帯林は昼より少し暗かったため、持ち物は火のついたたいまつ一本だけだった。
海好人は島から三キロほど離れた場所の島民が暮らしている集落の周りで、海好人は燕華を見つけた。燕華は暗い熱帯林の中を一人歩いていた。
「燕華!」
海好人は燕華の方へ駆け寄った。燕華はとても衰弱した様子で、体中の羽毛がくしゃくしゃになり、少し汚れていた。
「燕華」
「あ……海好人……様……」
海好人は燕華の両手をそっと握った。
「あの、スコップが……見つからなくて」
海好人は燕華にスコップを取って行かせたきり伝えるのを忘れていたのだった。
「ごめん。僕が何も考えなかったんだ。背中に背負ってあげるから一緒に帰ろう」
「はぁ……はい」
こうして海好人は持っていたたいまつを右手から左手に移した。そして、疲れている燕華を背負い一緒に帰って行った。
しかし、無事に帰れると思ったのもつかの間、なんと帰る途中で海好人達は巨大な蛇に出会ってしまった。
「海好人様、私を置いて逃げてください」
「いや、僕のためなら生きてみせろ、燕華。僕はお前を守る!」
海好人は左手に持っていたたいまつの火を操り、平らな炎の渦を造り、炎の盾にした。
「灼炎の盾!」
熱帯林の木に当たらないぐらいの直径の炎の渦で大蛇を威嚇し、大蛇は
逃げて行った。燕華は残った力を使ってその光景を一部始終見ていた。燕華は心の中で、こんな海好人様、見たことない……と思った。
その後無事四神丸に戻ると、燕華は海好人と一緒の部屋である一〇一号室でぐっすりと眠った。
その日の夜、司の作った薬を潮だまりにいるアノマロカリスの傷に塗った。アノマロカリスは薬が傷口にしみたようであまり潮だまりの中で動こうとしなかった。
特別合宿はこの次の日から、ようやく本格的に始まって行くのだった。