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ABISTERSADVENTURE (アビスターズアドベンチャー)  作者: 海燕 灯志
南島編
5/17

第四章 ガーディニア島の守姫(もりひめ)ウォーシア登場

 そして四神丸(しじんまる)が出発してから二日目の朝、定理(ていり)先生が生徒全員を起こした。

「みんな、ガーディニア島が見えたわよ!さっさと前甲板(ぜんかんぱん)まで上がりなさい!」

 定理(ていり)先生は嬉しそうな顔で元気に声を張って言った。

海好人(みこと)様、早く行きましょう」

「分かった。今行く」

 海好人(みこと)を筆頭に三人と二体は前甲板(ぜんかんぱん)に上がった。前甲板(ぜんぱん)とは、船の上でみんなが外を眺めたりする場所である。

 前甲板(ぜんかんぱん)に上がると、四神丸(しじんまる)の進む方向の先に島が見えた。濃い緑色の樹が生い茂る熱帯雨林と、その島の周辺には綺麗なサンゴ礁が島を覆っていた。

「おお、凄く綺麗なところじゃん」

 (つかさ)はそう言い、目の前の大自然に興奮していた。

「うぅーん。これで船旅の運動不足も解消されそうだわ」

 (こん)が背伸びをしながら言った。

「ここなら楽しく勉強したり、能石師(アビスター)の技術を高めれそうですね()好人(こと)様」

「え?あぁ、うん。そうだね」

 海好人(みこと)は困惑しながら答えた。本当はここで遊びたいという気持ちがあった。

「困ったことがあれば私に聞いてください。海好人(みこと)殿」

 紅葉(もみじ)は優しく紅色の瞳を向けて海好人(みこと)に言った。

「みんなそういうことを考えるのは、島についてからにしましょうね。さて、まずは朝食を食べに行きましょう」

 定理(ていり)先生は元気にそう言った。定理(ていり)先生と生徒たちは船内へと戻ろうとした。その時、バシャンと水面に何かが飛び跳ねる音がした。()好人(こと)は急いで船の外を見た。すると、五体か六体の人魚が()(じん)(まる)と競争するかのように、水面からジャンプしながら泳いでいた。みんなが()(じん)(まる)の中に戻っても()好人(こと)(えん)()は一人だけ前甲板に残りそれを見ていた。そこに()好人(こと)を気にして定理(ていり)先生と(つかさ)紅葉(もみじ)が戻ってきた。

「おお、人魚(にんぎょ)か。初めて見るなぁ。すごいスピードだ」

 人魚(にんぎょ)達は時々ジャンプを変えて空中で回転したりしてショーのようなものを見せてくれた。

「きっと挨拶のつもりなんでしょうね」

「うん、そうだね」

 海好人(みこと)燕華(えんか)人魚(にんぎょ)を微笑んで見ていると、人魚のジャンプに混ざって突然巨大なヒレと(こう)を持った生物が飛び出してきた。

「一体なんだ!」

 海好人(みこと)がそういうと、紅葉(もみじ)は腰に差していた刀を抜いて構えた。司は能石(アビス)のついた自分の身長程の杖を両手で持ち戦闘態勢に入った。

そこに校長先生が急いでやってきた。

「待ちなさい。あの生き物は様子を(うかが)っているだけで攻撃はしない」

 赤くて甲殻のある生物の正体は、全長五メートル程もあるアノマロカリスだった。アノマロカリスと言えば、私たちはよく理科の教科書で見ることがあると思う。カンブリア紀中期にいた動物で、全長は六十センチから最大二メートルまでいて、口で三葉虫などを襲った。口についている二つの太い触手と、丸く飛び出した黒い目、左右についた何十枚もあるヒレが特徴的である。

 海好人(みこと)もアノマロカリスを図鑑で見たことがあった。しかし、その動作や色は、黒い(すみ)で書かれただけの図鑑では感じられない躍動感(やくどうかん)と美しさを海好人(みこと)は感じることができた。

「なんで現れたんだ?」

「きっと挨拶のつもりなんだよ」

「そうか。威嚇(いかく)かと思った」

 海好人(みこと)は怖いという目をそのまま(つかさ)に向けた。その時、お八義(はぎ)前甲板(ぜんかんぱん)までやってきた。

「みんな何やっているんですか。遅いからご飯冷めちゃい……わぁーすごい」

 お八義(はぎ)人魚(にんぎょ)達とアノマロカリスの飛び跳ねる姿を見て驚いていた。

 〈こんな光景は僕らが見ただけでも驚くんだ。お八義(はぎ)ちゃんがこんなに喜ぶのも無理はないな〉

 海好人(みこと)がそう思っていると島から誰かが波乗りをしているのに気が付いた。それは緑色の髪をした少女で、サーフボードを使って波乗りしてこちらに少しずつ近づいてきた。不自然な水流を使って波乗りをしているため、海好人(みこと)はすぐに水の能石師(アビスター)だと思った。

 緑の髪の少女は、しばらく波乗りをして水上で一回転したり、大きな波の中を滑るように移動したりしていた。海好人(みこと)前甲板(ぜんかんぱん)にいた者はみんなその波乗りに魅了され、ただただ見ていた。しばらくすると女の子は四神丸(しじんまる)の方に向かってきた。そしてザバーンと大きな波を使って前甲板(ぜんかんぱん)に上がってきた。校長先生は緑色の髪をした少女の前に歩いて行った。緑色の髪をした少女はみんなに話し始めた。

「おはようございます。島の代表者としてジパールの方々(かたがた)を出迎えさせていただきます。私は水の能石師(アビスター)のウォーシア・ワイカラマと申します」

 この船に乗っているフェザルさんの音の能石(アビス)の力で、外国語は自分達の国の言葉に翻訳されて聞き取ることが出来るので、ウォーシアの言葉を全員聞き取ることが出来た。また、ウォーシアもジパールの言葉を聞き取ることが出来るので、(たが)いは少し喋りやすかった。

 ウォーシア・ワイカラマは名が先に来て、性が後なのでこの少女はウォーシアという名前である。

「おはようワイカラマさん。我々は貴方を含めるガーディニア島の人々と親密になり、能石師(アビスター)としては、互いの力を強めていけるような交流をしたいと思っています」

「はい。分かりました。交流とは、やはり火闘(フリン)()もされるのですか?」

 火闘(フリン)()とは、能石師(アビスター)同士の能石(アビス)を使ったバトルの事である。

「ええ、火闘(フリン)()だけでなく、いろいろな方法でお手合わせしたいと考えております」

「そうですか。では、私の相手をしていただける方はどちらですか?」

「貴方の相手は……」

 校長は言葉がつまってしまった。

「校長、ここは僕にお任せください」

「うむ。分かった」

 校長が(つかさ)にバトンタッチし、(つかさ)海好人(みこと)の肩をポンと叩いた。

「貴方も相手こそ、こちらにおられます。我が国ジパールが誇る火の能石師(アビスター)(あま)()()好人(こと)でございます」

 ウォーシアは、海好人(みこと)の方に体の正面を向け鋭い視線を向けた。

「初めまして、天世海好人(あませみこと)、私は水の能石師(アビスター)よ。あなたが火の能石師(アビスター)と言うのなら尚更(なおさら)、私と戦っても無駄よ」

 突然そういわれたので()好人(こと)は目を丸くして驚いた。その会話へ紅葉(もみじ)が割って入ってきた。

「無駄かどうかは戦ってから決めてください。ウォーシアさん」

「ふん!絶対負かしてやるんだからね!」

 ウォーシアはそう言って島へ戻って行った。

 朝食が終わる頃に四神丸(しじんまる)はガーディニア島についた。ガーディニア島では一人の女性が出迎えてくれた。

「こんにちは。私はガーディニア島にある能石組織(アビスシステム)のワカナカに所属する科学者で、島の調査や研究をしているセイルと申します」

 セイルという科学者は海好人(みこと)達におじぎをした。

セイルは黄緑色のショートヘアにまぶたを閉じているような眼をしており、肌色は白い肌が少し、日光に焼けたような色で、身長は175センチくらいのスリムな体型をしており、べージュ色のズボンと緑色の半袖(そで)のシャツといった姿をしていた。そして彼女はジパールの言葉を話すことが出来た。

 天羅(てんら)校長がセイルさんの前まで歩いて行った。

「こんにちは。セイル博士。お会いできて光栄です。私はジパールの能石学校(のうせきがっこう)の校長で天羅(てんら)と申します。今回はガーディニア島の交流を含めた特別合宿(とくべつがっしゅく)という形でこの島に来ました。今から生徒達を本部であるワカナカに連れて行ってください。私は用事がありますので定理(ていり)先生、後はよろしくお願いします」

 今回の旅って校長先生の事情がかかわっているんだろうと海好人(みこと)は思った。

「分かりました。ではついてきてください」

 セイル博士に連れられて定理(ていり)先生と生徒達はガーディニア島にある組織「ワカナカ」の本部へと向かった。ガーディニア島の中心から島を引き裂くように川が流れており、その川を超えて行かなければならなかった。川には橋の代わりに大木が横倒しになり、向こう岸までかかっていた。大木に沿って歩いていった先にワカナカの本部はあった。古代遺跡(こだいいせき)のように、岩を加工し、何時間もかけ、建物(たてもの)の形を造ったようで、その外見は自然と文明が共存(きょうぞん)しているかのようだった。そんな巨大建造物の入り口の前に頭をバンダナで覆った女性がいた。

「イオナ、こんにちは」

「こんにちは。セイル、後ろの人達は?」

「彼らはジパールから来た能石師(アビスター)の学校の先生と生徒よ。今から、ワカナカの本部の中を案内したいの」

「なるほど。そのことなら今日、上から説明があって、中に入れるようにと指示が出てるわ。ごゆっくり見学していってね」

「ありがとうイオナ」

 二人はガーディニア島の言葉でこの会話を話した後、後ろにいる定理(ていり)先生と生徒達に目を向けた。

「それではこれから、ワカナカの本部ラ・ヘイアウの中を案内します。その前に、こちらがワカナカを守ってくれている門番のイオナです」

 セイルは一歩右側に移動し、左手を左側にいるイオナさんに向けた。

「アロハ、私は音の能石師(アビスター)のイオナです。困ったことがあったらいつでも言いにおいでね」

 イオナは丁寧なジパール語に自分の言葉を翻訳して海好人(みこと)達に聞かせた。彼女は音の能石師(アビスター)でジパール語を理解することが出来た。

イオナは日に焼けた茶色い肌をしており、黒い髪にバンダナをし、目は黒色の瞳をしており、青色の(そで)のないシャツと(ひざ)まであるベージュ色のズボンを()いていた。足には、植物で造ったゾウリを()いていた。身長は175センチ程で、年齢は20代前半のような若い感じがした。

「さあ、それじゃあラ・ヘイアウの中へ行きましょう」

 セイルさんはワカナカの岩で造られた空間の真っ暗な入口へ吸い込まれていくように入って行った。みんなもセイル博士に続いて入っていくので海好人(みこと)も多少の恐怖を抑え勇気を出して入って行った。

そもそもラ・ヘイアウとは、ラは太陽、ヘイアウは神殿を意味する言葉である。ラ・ヘイアウの中には石を積み上げて作った足場とその周りを囲うように水が流れていてそれを壁に立てかけてあるロウソクが照らしていた。

 定理(ていり)先生と四神丸(しじんまる)の生徒はセイル博士の解説を聞きながらラ・ヘイアウの奥へと進んでいった。

 一方その頃、(こん)燕華(えんか)四神丸(しじんまる)の中で主が帰ってくるのを待っていた。

「あー(つか)っちゃん達遅いわね」

「でも熱心に勉強してるだけで決して油を売ってるわけではないので大目に見てあげましょうよ(こん)さん」

「あたしは油揚げを買ってきてほしいね」

「もー本当に食いしん坊ですね」

 こんな会話をしながら二体は楽しんだ。その後海好人(みこと)達が帰ってきたのは夕方の四時頃であった。島には夕日の光が照っており、海の色が朱色に染まった。

 穏やかな空気の中、この島には少しずつ嵐が近づいてきた。この嵐はガーディニア島の土地に大雨を降らせ、島の植物の成長を助けるなどの役割を持つのと同時に、植物や、人の命を奪うようなものでもある。この島の能石師(アビスター)は人命の救助や家畜、獣人(じゅうじん)の保護を手伝うようにし、嵐という自然現象に対処してきたのだった。四神学校(しじんがっこう)の生徒もガーディニア島の能石師(アビスター)と協力して守るべき命を守ろうと考えていた。

「この島は毎年嵐によって多くの人間が被害にあいます。しかし、そんな時でもこの島の住人達は、互いに協力し、身を守っています。また、ここには古くから戦士達が民を守っているの」とワカナカの中でセイル博士が話してくれたことをみんなよく覚えていた。

「そもそもこの島の住人は台風に慣れているから僕達が協力しようとしてもそんなに大した力にもなってあげられないだろうし、逆に足を引っ張ってしまうかもしれない。だから、ガーディニア島の能石師(アビスター)と協力するのはやめた方がいいと思います」

 夕食後、話し合いが始まった図書室の中で、そう発言したのは海好人(みこと)だった。確かにこの島に慣れていない貝の国の生徒では、島の命を助けるどころか自分の命を落としてしまう危険もある。しかし、この発言に赤風紅葉(あかかぜもみじ)が激怒した。

「何言ってるんですか。あなたはそれでも我が国の能石師(アビスター)ですか。いいですか、嵐の強風といった自然災害は能石師(アビスター)が進んで立ち上がり、人々を守らなければ我々が結んだ自然と人との絆が切れてしまうんです。土砂崩れ、津波などの二次的被害を防ぐために我々は動き出さなければならない」

 紅葉(もみじ)の熱い発言で多数決の結果、四神学校(しじんがっこう)の生徒達は島の能石師(アビスター)と協力して島の人々や獣人、家畜や動物の命を守る事になった。

 そして嵐の日、燕華(えんか)(こん)にも手伝ってもらい、島の人との協力は始まった。海好人(みこと)紅葉(もみじ)と海岸で津波を警戒した。(こん)は島の奥部で助けを求める人がいないか警戒しながら熱帯林を駆け回っていた。燕華(えんか)は風の吹いてくる方向へ飛び、向かい風を受けて大きく上昇した後、方向を変えて追い風を利用し、島の反対側まで飛行しながら上空で偵察し、川に流されている人がいないかなどを警戒した。また、燕華(えんか)(つかさ)の連絡係もやった。(つかさ)は司令塔として指揮を()り、偵察している燕華(えんか)からの嵐の負傷者などの連絡を待った。一方でウォーシアは人魚(にんぎょ)達の集まる場所へ行き、安全な場所へ誘導したりしていた。

 激しい雨音が聞こえるガーディニア島の磯に一人たたずむ茶髪の男がいた。身長は百八十センチ程でスマートな体格をし、半ズボンと袖なしのシャツを着ていた。右手には雷の能石(アビス)を持っていた。その近くには若い少女のような雌女(めじょ)人魚(にんぎょ)がいた。

「これからちょっとしたショーを見せてやるから、目を離すなよ」

「分かったわ」

 男は右手を挙げた

「落ちろ(いかずち)!サンダーストライク!」

 すると曇天から青白い雷が一直線となって海へ落ちた。

「これで邪魔者が一匹減った」

 雌女(めじょ)人魚(にんぎょ)は唖然とした顔で雷の落ちた場所を眺めていた。


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