第三章 四神丸での初授業
四神学校の生徒三人と和菓子屋の娘が一人、守護獣人二体、そして四神丸に乗った大人達四人は船内のロビーへと入った。するとこの船の艦長らしい人物が彼らを出迎えた。
「こんにちは。四神学校の皆様、私はこの船の艦長を務めさせていただきます。テラシルと申します」
テラシルという艦長は、白い長髪に、透き通るような白い肌、青い瞳の目に白い服と帽子をかぶり、白い軍手とズボンの下に白い革靴を履いていた。身長は定理先生と同じくらいの百七十センチ程であった。
「ではこれから、船内を案内させていただきます。なお、四神丸は現在、無人操縦しておりますので、ご安心ください」
そういうとテラシルさんは歩いていき、船内の部屋を丁寧に説明していった。テラシルさんは外国のような姿なのに、日本語がとてもうまいため、生徒達三人と獣人達二体は説明を聞くたびに感心ていた。
テラシルさんの案内で分かったことは、この四神丸という船は一階と二階に分かれており、一階はロビーがあり、そこから続く廊下を挟むように図書室と風呂場があり、廊下の先には食堂があった。二階には、生徒や先生達が休める個室が十部屋あった。また、説明はなかったがこの船に乗った人や獣人達は、四神丸の外観が凄いと思っていた。四神丸の外観は宇宙船のようだった。波を受ける外板は白い外板に赤い鉄製で壁のような板が船の中央部から鋭い船の船首まで覆うように沿った形でぴったりと付いており、その赤い板からは船首に向かって白く長い三本の爪のようなものが前方を覆うかのように伸びていた。船の後ろからも赤い鉄製の板が四神丸の外板を覆っていた。そして上部は流線型の操縦室から後ろの尾翼まで純白だった。また、四神丸の屋根には、六角形の巨大なパネルが三枚と台形のパネルが四枚ついており、四神丸の屋根に沿って付いていた。
海好人たちを乗せた四神丸は最初の目的地であるガーディニア島に向かって進んだ。
船内の操縦室のすぐ後ろにある一〇一号室が海好人と燕華の部屋であった。そこで司の部屋で海好人は司に定理先生が天世城に来て直接手紙を渡したことを話すことにした。
「失礼します。司、入ってもいい?」
「おう、いいぞ」
司の黄色い瞳が海好人の方を向いた。司は海好人より背が高く、百七十センチ程の身長で、金髪、髪と同じ色の太い眉毛、顔立ちは美少年というにふさわしい。白色の長着の上に緑色の羽織に抹茶色の袴を着ていた。司は、雷の能石師であり、普段から、直径十センチの球状の能石がついた杖を持っていた。
「それじゃあ、定理先生から直接成績表をもらったのか。あの先生もやることがなかなかずるいな」
司は呆れた顔で海好人の話を聞いていた。
「俺の成績表は修了式の終わる前に飛脚が親の元に届けにきたぞ。そして四神丸の旅は特別合宿じゃなくて異国の能石師との交流を目的にした楽しい旅って書かれていたんだ」
「えっ!そうなの?」
海好人はこうして残念な真実を知った。
四神丸が出航してから三時間が経ったころ、お八義は定理先生の部屋である一〇九号室のドアをノックした。
「失礼します」
「はい。あら、お八義ちゃんじゃない。どうしたの?」
「実は、上田さんがお手伝いについて午後はしなくてもいいっていうんです。そこで、私も四神学校の授業を受けてみたいと思っています。私は能石師じゃありませんがこの世界の歴史とかもっと知りたいんです」
「そう。分かったわ。じゃあ今回だけ特別に授業に参加させてあげるわ。時間は今日の午後一時、場所は図書館に集合してね。持ち物は帳面と筆を持ってきてください」
「はい」
そしてその日の午後はお八義と一緒に第一回目の四神丸での授業をすることとなった。
「はい。では今から四神丸最初の授業を初めたいと思います。まず、この旅には一緒にお八義ちゃんも参加しているので、三種族の基礎知識について復習したいと思います。それでは始めましょう」
海好人達は船内の図書室で授業を受けていた。図書室には丸机が二台置かれ、一台につき四人が座れるようになっていた。またこの図書館には四神丸の進行方向の方の壁に黒板が設置されており、先生はそこにいろいろなことを書けるようになっていた。そして、この授業を受けるのは、天世海好人と神森司と赤風紅葉、そしてお八義であった。
定理先生は、まず黒板に白いチョークで「三種族の基礎知識」と黒板の上部中央に書いて話を続けた。
「この世界は、大きく分けて人間、獣、獣人の三タイプの種族が生息しています。獣は主に人と獣人とは異なり、三タイプの中でも原始的な生物であり、言語を持たず、感情の表現を行動で表します。中には集団行動をとる種類も存在します。次は獣人について説明します」
定理先生は黒板に「獣:言語を持たず、感情の表現を行動で表す。中には集団行動をとる種類も存在する」と黒板の左側から横書きで書いた。これには普段から定理先生の授業を受けてる四神丸の生徒は帳面に移していたが、初めてのお八義には少し大変なことだった。
獣についての説明はこちらでも解説しよう。アストランドという星の獣というのは、地球上で言う魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類などの動物のことを言う。しかし、それは大げさな言い方で海の生物で言えばエビやカニ、タコやイカといったものも含める。ここでこの星の生物については説明しきれないため、それらはまた旅の中で説明していくつもりである。この星には、地球に存在する生物もいれば、地球上では、伝説や架空の生物として扱われてきた動物も存在する。この星の生物達がなぜそんな進化を遂げ今に至ったのかは分からない。
「なんでこんな世界があるんだろう」
海好人は定理先生の話を聞きながらそう思った。海好人もこの世界の生物の謎に興味があった。
「次は獣人について説明します」
定理先生は獣の説明の下に「獣人」と書いて獣人の話を始めた。
「獣人には鳥人、狐人、人魚など多くの獣人が存在します。彼らのことを総称して獣人類とも言います」
定理先生は「獣人」と書いてある隣に「(獣人類)例:鳥人、狐人、人魚」と書いた。
「獣人は人と獣の混合体とも呼ばれ、進化の過程上なぜこの世界に誕生したのかははっきりとしていません。獣人は種類ごとに集団を作り生活します。その集団を種族と言います。そして、その種族は地域で別れ、群れごとに生活しているものもいます。その群れを群集と言います。それぞれの種族には王が存在しており、種族がそれぞれの王に従って行動しています。そして群集には、リーダーが存在します。リーダーは王の指示に従い、群集を仕切っています。獣人の誕生の起源は、現段階では人類と同じだとされています。人類が活動範囲を広げていくと同時に、獣人と人類の生存場所をかけて多くの人間と獣人が争いました。獣人の話の途中ですが何か質問がある人はいませんか?」
ここでお八義が手を挙げ質問した。
「はい、定理先生」
「はい、お八義ちゃん、何ですか?」
「獣人の性別はどう言えばいいんですか?」
「そういえば、まだ説明していないわね。獣人の性別は、人間で言う男性の場合は雄男、女性の場合は雌女と言います」
定理先生は「(獣人類)例:鳥人、狐人、人魚」の下に「雄男」と「雌女」と書いた。
「また、獣人の数え方は一体、二体というように数助詞は体を使います」
定理先生は「雄男」と「雌女」と書いてある下に「数え方:体」と「獣人」の下を開けて左から詰めて書いた。定理先生は話を続けた。
「獣人は古来より人間と共存してきた者達としなかった者達がいて、してきた者はその土地で生活する人々使う言語を使うようになり、その言語で仲間や生活している地域周辺で暮らす人々と会話することが出来ます。しかし、人間と共存せず生活してきた獣人は独自の言語を持ちます。この独自の言語を話す獣人は人間を嫌悪し、自分達のテリトリーに入ってきた人間を襲うこともあるので、能石師は独自の言語を話す獣人の種類と、テリトリーの範囲を学習しておき、人間が入らないように注意を呼びかける事も大切です」
ここでお八義が手を挙げた。
「はい、お八義ちゃん、何かしら?」
「先生、何で人間と共存しない獣人がいるんですか?」
「はい、いい質問ですね。なんで共存しない獣人がいるのかというのはいろいろな説がありますが、一説には人間と共存しない獣人は、かつて人間に開拓といった理由で狩りや虐殺をされた獣人が人間を敵と考えているという説があるかしらね」
このような感じで授業は進んでいった。授業後も海好人達にはやるべき課題があった。ガーディニア島について、船内の図書室で資料集を見て予習したり、商人のフェザルさんから現地の人の言葉を学んだりして予習をしておくようにと定理先生から言われていた。そのため海好人は、四神丸の図書室からガーディニア島について書かれた本を読んだり、ガーディニア島の地形を知るため、地図を見たりしていた。海好人だけでは分からない部分は、司に手伝ってもらいながら目を通していった。ガーディニア島は熱帯気候で生物資源に恵まれており、多くの植物や動物が生息していることや、獣人の一種である人魚の生息地として有名であることなどを調べて知ることが出来た。