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ABISTERSADVENTURE (アビスターズアドベンチャー)  作者: 海燕 灯志
南島編
3/17

第二章 貝の国からの出発

 海好人(みこと)は、早速部屋に戻ると、旅のしおりを開き、読み始めた。その内容は以下の通りだった。

 始めに、この特別合宿(とくべつがっしゅく)能石師達(アビスターズ・)冒険(アドベンチャー)」では、生徒一人一人の学力の向上、および社会に進出する上では能石師(アビスター)に必要な能力の向上を目的としています。この授業には、いくら教師がいるとはいえ、多少の危険が伴われるかと思います。自分の自然霊(ネイスト)を信じて、先生や仲間達と共に困難を乗り越えていきましょう。

「何だ、この前書きは……」

ここに書かれている自然霊(ネイスト)とは、アストランドに存在する自然を具現化したエネルギー体で、それを宿らせている石が能石(アビス)なのである。自然霊(ネイスト)は具現化した時の強さと能石師(アビスター)の鍛錬によって強くなる。そのため、能石(アビス)の使い方は能石師(アビスター)によって様々なのである。

海好人(みこと)は少し不安な気持ちになりながらも次のページをめくり始めた。そして、しおりに書かれている持ち物や、書かれている内容に目を通していった。その中には、「自分の家の都合で守護獣人(しゅごじゅうじん)などがいる場合は、特別合宿(とくべつがっしゅく)への参加をさせてもよい」と書かれていた。

()好人(こと)は早速、燕華(えんか)を呼んでみた。

炎天(えんてん)の 空に舞い咲く ツバの華」と大きな声で言った。天世城では、燕天狗(えんてんぐ)を呼び出す時、呼び出す燕天狗(えんてんぐ)の名にちなんで川柳を読むのである。

()好人(こと)が読み終えた途端、目の前に一瞬で燕華(えんか)が現れ、片膝(かたひざ)(たたみ)につけて頭を下げ、海好人(みこと)に話した。

「何用でございましょうか。海好人(みこと)様」

「今度の夏休みの特別合宿では、守護獣人(しゅごじゅうじん)も連れて行けるようだ。だからお前も参加してほしい」

「はい。それはぜひ参加させていただきます。しかし、瞬麗(しゅんれい)様が何とおっしゃるか……」

「わしは構わんよ」

燕華(えんか)海好人(みこと)の前に瞬麗(しゅんれい)様が現れた。

瞬麗(しゅんれい)様、本当に私が海好人(みこと)様について行ってもよろしいのですか?」

「良いぞ!燕華(えんか)よ、しっかりと海好人(みこと)を守るんじゃ。二人共、無事に帰ってくるんじゃよ!」

 海好人(みこと)瞬麗(しゅんれい)に頭を下げた。

瞬麗(しゅんれい)様、誠にありがとうございます。燕華(えんか)と共に無事に戻ります」

 こうして海好人(みこと)は、燕華(えんか)と共に特別合宿(とくべつがっしゅく)能石師達(アビスターズ・)冒険(アドベンチャー)」を受けることになった。

 海好人(みこと)が眠りについた頃、ジパールにある「日昇(ひのぼ)りの(ほこら)」に存在する能石師(アビスター)が集う東方の能石組織(アビスシステム)紅炎雀(ぐえんじゃく)」、その幹部である鶏鷹(けいよう)定理(ていり)先生が話をしていた。鶏鷹(けいよう)さんは、赤い髪の毛を腰辺りまでたらし、巫女(みこ)の服装をした若い女性であった。

海好人(みこと)君に、あの特別合宿(とくべつがっしゅく)のことを話してくれたのね」

「はい、しかし、自分も教師です。生徒を(もてあそ)ぶようなことはしたくないので、特別合宿(とくべつがっしゅく)の方はしっかりやらせていただきます」

「そうね。しっかりと授業をして鍛えてあげなさい。海好人(みこと)君も照美(てるみ)のように立派な火の能石師(アビスター)になれるといいわね。もうこれからは海好人(みこと)君が照美(てるみ)の仕事をしてもらわないといけないかもしれないからね」

 鶏鷹(けいよう)はやさしく微笑んでいたが、どこか悲しそうだった。

鶏鷹(けいよう)様、どういうことですか?」

 鶏鷹(けいよう)は深刻な顔ではなし始めた。

「最近、北の能石組織(アビスシステム)であるビエーリゾーントで能石師長(アビスマスター)のベンゼルが、何者かに襲われ、重傷を追ってしまったの。それで、(てき)が何者なのか調査に乗り出しているの。私たちの貝の国からは、天世照美(あませてるみ)がいくことになっているの」

 能石師(アビスター)の組織「能石組織(アビスシステム)」は、アストランドに大きく分けて四つの組織が存在しており、東の紅炎雀(ぐえんじゃく)、南のワカナカ、北のビエーリゾーント、西のヴィズィオンシュトがある。海好人(みこと)が受ける「能石師(アビスターズ・)冒険(アドベンチャー)」は、この四つの組織のある国で強者(つわもの)能石師(アビスター)と戦かったり、異国の人と交流を深めるものである。また、この能石組織(アビスシステム)には能石師長(アビスマスター)という地位の幹部が存在し、彼らはそれぞれの地方でも最高の実力を誇る能石師(アビスター)である。人が能石師(アビスター)になる際に、能石師長(アビスマスター)自然霊(ネイスト)を創り、それと契約(けいやく)させ、能石師(アビスター)となるのである。

照美(てるみ)さんが。……一人で行かれるのですか?」

「そう。行った先で他の調査隊と合流し、調査をするの。照美(てるみ)は火の能石師(アビスター)だから、ベンゼルのいる寒い地域で、温度を操り、各隊員の体温を調整する役として選ばれたの。照美(てるみ)さんの方からもこの件では了承を得ているわ」

「そうですか。照美(てるみ)様のご無事を祈ります」

定理(ていり)先生は手を組み、日昇(ひのぼ)りの(ほこら)の穴から見える夜空に願った。

照美(てるみ)様、海好人(みこと)君は私が鍛えます。なので、どうか生きて還ってきてください」

 夜空はただ静かに星がきらめいていた。

 そして、船出当日(ふなでとうじつ)の日を迎えた。海好人(みこと)は普段より早い午前五時に起きようとしたが、夕べあまり寝ることが出来ず寝坊しそうになってしまっていたところを燕華(えんか)が起し、何とか時間内に出港式をする港に着いた。そこには、なかなか大きく、美しい近未来的なデザインの赤と白色の船が一隻(せき)あり、その近くに定理(ていり)先生もいた。

「おはようございます。海好人(みこと)君。他のみんなはもう乗っているから、私と一緒に船の前甲板(ぜんかんぱん)まで行って出港式を始めるわよ」

 ()好人(こと)は、どんな人が一緒に行くのか動揺や、緊張をしながら燕華(えんか)と一緒に前甲板(ぜんかんぱん)の方に行った。

 前甲板(ぜんかんぱん)に来た海好人(みこと)の前には、校長先生や、友達であり海好人(みこと)のクラスで学級委員長を務める社森司(かみもりつかさ)と司の守護獣人(しゅごじゅうじん)である狐人(こじん)と呼ばれる狐のような姿をした獣人(じゅうじん)(こん)、女子学級委員長である赤風紅葉(あかかぜもみじ)がいた。

 生徒達は皆一列に並んでいたので、海好人(みこと)は一番右に並んでいる赤風紅葉(あかかぜもみじ)さんの隣で並んでいた。ふと海好人(みこと)は先生たちの並んでいる中に小柄でかわいらしい少女が混ざっていることに気が付いた。前髪は左側が頭の横側に引っ張られるように止められ、右側の髪は目に向かって垂れていた。髪色と瞳は黒く、その眼は早朝にさすわずかな日の光を受けて輝き、生き生きとしており、彼女の純粋さを象徴しているかのようだった。顔や手の肌色は白く綺麗だった。

「お八義(はぎ)ちゃんだ」

海好人(みこと)は少し驚いた。このお八義(はぎ)という女の子は、和菓子屋の看板娘であるが、海好人(みこと)とは縁の深い人物であった。というのもある夜、夜道を一人で帰っていたお八義(はぎ)は迷子になり、天世城(あませじょう)が協力してお八義を(さが)し、燕華(えんか)が場所を知らせ、()好人(こと)が駆けつけ三人でお八義(はぎ)の家へ歩いていたところ、野良犬(のらいぬ)に襲われそうになり、その時に、火の自然霊と偶然(ぐうぜん)契約を結び火を操る能石師(アビスター)となることが出来た。これはめったにない現象であり、海好人(みこと)に起こった奇跡だとされているが、周りの人はそのことを知らない。知っている人は、海好人(みこと)の父、平和(ひらかず)と母、照美(てるみ)、そして社森司(かみもりつかさ)定理(ていり)先生、紅炎雀(ぐえんじゃく)鶏鷹(けいよう)

くらいであった。

そして出港式が始まった。司会は四神学校(しじんがっこう)の教頭先生が務めた。

「それでは四神丸(しじんまる)の出港式を始めます。本日から始まる特別合宿(とくべつがっしゅく)への参加を希望し、ここにいる生徒諸君、我々教師一同は君達のその決意を賛美する。君たちがこれを期に立派な能石師(アビスター)となり、この世界の三種族(さんしゅぞく)の平和を守って行ってほしいと思います」

 教頭先生の話が終わり、次は特別合宿(とくべつがっしゅく)の関係者の紹介へと移った。

「次に船内と、特別合宿(とくべつがっしゅく)の中で生徒たちをサポートしていただく方の紹介をしたいと思います。まず、食堂で食事を作られる上田美咲(うえだみさき)さんです」

 海好人(みこと)の並んでいる場所と向かって右側に定理(ていり)先生を含め四人の大人が並んでいたが、海好人(みこと)は校長先生と定理(ていり)先生しか分からなかった。その中の一人が生徒の横一列に対して中央で向かい合うような場所まで来た。見た目は貝の国の女性らしく、着物にたすき掛けをした人だった。女性は海好人(みこと)達の前にある朝礼台の上に立った。

上田美咲(うえだみさき)と申します。よろしくお願いします」

 上田美咲(うえだみさき)さんは生徒達に挨拶し、礼をして元いた知らない男の隣に戻った。

「次に、様々な国を旅して、商業をされているフェザルさんです。彼は優秀な音の能石師(アビスター)でもあり、異国語を翻訳し、音の能石(アビス)の力で異国語を母国語に変換し、対象となる人間に聞かせることが出来ます」

 フェザルという男は、薄いウグイス色の髪を頭の後ろで束ね、瞳は黄色く、女性のような顔つきをしており、美青年という印象があった。肌の色は白く、身長は百八十センチ程の長身で、体形は細く、西洋風の服を着ていた。

 フェザルは朝礼台の上まで歩いていき、「フェザルと申します。よろしくお願いします」と言って礼をし、元いた校長先生の隣まで歩いて戻っていった。フェザルさんの声は少し暗い感じがした。

「ここで、今回の旅に同行し、お手伝いをすることになった八義(はぎ)さんの紹介をします」

 教頭先生がそういうと、定理先生の隣にいたお八義(はぎ)は朝礼台の上まで上がった。

「おはようございます。八義(はぎ)と申します。このたびは、この旅にご一緒させていただくことになりました。お八義(はぎ)と呼んでください。どうぞよろしくお願いします」

八義(はぎ)は元いた定理先生の隣へ戻って行った。

「次に定理(ていり)先生、よろしくお願いします」

定理(ていり)先生が朝礼台の上まで歩いて来た。

定理(ていり)と申します。みんな、ガンガン鍛えていくわよ!」

しばらく沈黙があり、定理(ていり)先生は赤面して校長先生の隣まで戻って行った。

「では次に、校長先生のお話です」

 フェザルさんの隣にいた校長先生が朝礼台の上までスタスタと歩いていった。校長先生の名は天羅(てんら)と言い、学校では生徒達から校長先生と言われ恐縮されていた。髪は白い長髪で、(ひげ)が丁寧に()られており、顔には掘られたようなシワがくっきりと見え、肌の色は白っぽく、身長は百七十五センチくらいあり、普段は黒いローブを着ているのだが、今日は(えり)に白い毛が付いたローブで現れた。朝礼台に上がった校長先生は早速語り始めた。

「この授業を通して、君達は何を得るのだろうか。私にはそれは分らない。けれども、君たちの夢、希望、愛、正義、勇気、友情を乗せたこの船ならば必ず最後には勝利と成功の舞台へと導いてくれるだろう。君達がこの授業中にしなければならないことがある。それは、自分の抱く夢をあきらめずに持ち続けることだ。また、過酷なときや絶望しか感じられない時、そんな時に、自分の意志を思い出し前に進むことだ。なぜここまで言うのか。それは、我々一同は君たちの未来は輝かしいものだと期待しているからだ。たとえどんなに馬鹿であろうと、どんなに運動音痴だろうと明るい未来は来るものだ。我々は君達の明るい未来を見たい。そのために、我々教師一同は地獄まで付き合うつもりでいる。皆、懸命に努力せよ」

 話を終えて、校長先生は朝礼台から下りて元の位置であるフェザルと定理の間へ戻って行った。

 普段は聞いたことのない校長先生の迫力ある演説に、海好人(みこと)は驚いていた。

「それでは、間もなく四神丸(しじんまる)が出航いたします」

 教頭先生は、そう言うとスタスタと歩いて四神丸(しじんまる)から出た台を下りて行った。教頭先生が下りたのを確認し、台を収納し、出発する準備がととのった。

 ウィーンと音がして、船が動き始め、ゆっくりと港から離れていった。港では、教頭先生が一人で手を振っていた。

「教頭先生、一人なのに、ありがとう」

 たった一人で手を振る教頭先生を見ていた海好人(みこと)は、教頭先生が手を振っている方向の上空から何かがすごいスピードで飛んでくることに気が付いた。それが三十メートル程の距離まで来た時、その正体に気付いた。

 それは、天世城(あませじょう)にいるはずの燕天狗(えんてんぐ)達が、海好人(みこと)を送り出すために飛んできてくれたのだった。燕天狗(えんてんぐ)の先頭は瞬麗(しゅんれい)様がいた。燕天狗(えんてんぐ)達はそれぞれ海好人(みこと)燕華(えんか)に励ましの言葉を贈った。

「おい海好人(みこと)、強くなって帰ってこいよ!」

燕華(えんか)ちゃんと頑張ってね!あとお土産よろしく!」

海好人(みこと)!泣きたくなった時は我慢じゃあ!忘れるなよ!」

燕天狗(えんてんぐ)達はそれぞれ言いたい事を言うと、優雅に空を舞って見せ天世城(あませじょう)へと帰って行った。

 みんなに励まされて恥ずかしがりつつも、海好人(みこと)は嬉しかった。


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