箱庭ができた理由
東国レーヴァイン。
かつて小さな島国だったこの国は豊かな森林と海に囲まれた独立国家だった。
隣国までは空路か海路でしか行き来出来ず、また小国であった為大国の脅威に晒される事もなく長い時間平和を保っていた。
その平和が崩れ去ったのは今から三十年前。
一人の優秀な技術者が開発した魔力増幅器。これを巡って戦争が起こった。
それまで世界共通の認識であった『魔法とは魔法師のみが扱えるもの』という概念を覆した画期的なその魔法補助具は、魔法を使えない者でも魔法を使えるようになり、元々魔力のある者にはより強力な魔力を得られるという代物だった。
当時世界のまだ誰も成しえていなかったこの偉業を大国が黙って見ている訳もなく、その技術者を引き渡せと当時の王家に圧力を掛けて来た。初めは小競り合い程度だった言い争いも長引くにつれ激しさを増し、とうとう実力行使に出た大国が技術者を連れ去ったのだった。そして大国は、気付いてしまった。今まで歯牙にも掛けて来なかった小国の技術力の高さに。彼以外にも天才と呼べる技術者がいる事に。
結局魔力増幅器を造った技術者を皮切りにレーヴァインにいた残り六人の天才技術者の存在が次々と明らかになり、最終的には六人の技術者を巡って大きな戦争が起こった。
勝てる見込みは元よりなかった。レーヴァインの魔法師全員を前線に投入しても圧倒的に不利だった。それでも、何もせずにただ黙って彼らを引き渡す訳にはいかなかった。
結果は惨敗。元々争いを好まない人種であったレーヴァインの民は抵抗虚しく倒れていった。
残されたのは戦争の傷跡と代償。扱いきれない技術の結晶。生き残ったのはほとんどが女子供と老人、辛うじて隔離された技術者の卵たち。軍に従属していた若者や魔法師は一部を除いて戦死した。戦争開始から終戦まで僅か半年あまりの出来事だった。
被害は甚大だった。唯でさえ小さな島国だったのに更に国土の三分の一が消滅。人口はおよそ半数近くにまで減少した。
七人の技術者達は一人残らず大国へ攫われてしまった。
敗戦後、攫われた彼らを取り戻すことはしなかった。国も、身内も、誰も助けに行こうとしなかった。残酷だが、それよりもしなければならない事があったのだ。
壊滅状態の国の復興と防衛。もう二度と攻め込まれる事のないよう特に守りに力を入れた。軍を解体、守備を専門とした組織編制、魔法師の取り纏め。一般市民を巻き込まない為の居住区の整備。
そうして新たな若き技術者達を先導に巨大な二層円形都市を築き上げたのだった。
それがルーヴェリア。
俺達が暮らす箱庭。