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Last Notice―特殊異能課―  作者: uka
【case2】特能課始動
19/25

僕の秘密

ここで【case2】本編はおしまいです。

次話は閑話を挟んで【case3】に突入します。


―――守護対象が個人じゃ、Last Notice本隊は動かせないんだよ


―――だから僕らがいるんだ



「…………」

 ずっと、疑問だった。

 どうしてLast Noticeの中にわざわざ非公式の内部部署を作ったのか、どうして課の人間は魔法師でなければいけなかったのか……

 良く考えてみれば魔法絡みの事件が起きない訳がない。

 今現在、LN以外で魔法師と名乗っている人間はもう随分昔に現役を引退した祖父母世代。それも大戦の所為で十数人しか残っていない。父母世代は才能があったとしても才能が開花する幼少期は復興の真っ最中で誰かに師事するどころではなくそもそもの人数が少ない。

 そんな慢性的な魔法師不足の中、第一線を担っているのが突如爆発的に増えた俺達【異能者】世代だ。そしてその殆どが国家保安局に所属していると聞く。

 仮にレーヴァイン中の魔法師を管理出来ていたとしてもレーヴァインを訪れる国外の魔法師までは把握出来る筈もなく、更にその魔法師が問題を起こさない保証はどこにもない。

 事件が起きたとしても全てがLN以外の魔法師で解決出来るとは限らないのだ。むしろ難しいだろう。

 【Last Notice】という名では対応出来ない、公では動けない事件を請け負う為だったんだ。

 多分まだ俺の知らない制約や取り決めがあるのだろうが、全てはこの国で生きる人々の為に作られたんだ。 



「……話を戻すね」

 三杯目のミルクティーを淹れたマグカップに、たっぷりの蜂蜜をぶち込んだ夏芽さんは、コホンと一つ咳払いをして再び俺を見た。

 ローズさんもカナさんもクゥさんも、何も言わず夏芽さんを見つめたまま微動だにしない。

「フレクトくんの錯乱の原因なんだけど、LN(ウチ)の古代魔法課と科学技術課に調べてもらったら傀儡(くぐつ)でほぼ間違いないそうだよ」

「つーコトは相手は傀儡師(くぐつし)なのかよ?」

 カナさんが信じられないといった顔で夏芽さんに訊ねる。

「どうだろう……セルキーちゃんを攻撃した魔法は現代魔法だったから、【傀儡師】なのか【魔法師】なのか判断出来ないね。単独か複数かも分からない」

  両方だと面倒だよ、と力なく笑う。

「ただ分かったこともある。傀儡の術自体は大陸のものだそうだよ。かなり昔の術式だって」

「そんな使い手がまだ残っているのか……」

 苦い顔でクゥさんとカナさんが顔を見合わせる。

「困っちゃうよねぇ。僕らにとっては相性が悪い」

 大きく溜息を吐いて夏芽さんが嘆く。

 魔法と一言で言ってもその中には種類がある。

 電子魔法・現代魔法・古代魔法……古代魔法の中には更に精霊魔法や召喚魔法なども含まれ、それぞれ特徴がある。

 あくまで補助目的でしか使用できない電子魔法は除外するとして、魔法式の展開が早い現代魔法と長い詠唱と符を必要とする古代魔法では、前者は手数の多さから近中距離戦を得意とし、後者は有効範囲の広さと圧倒的な破壊力から長距離戦を得意とする。

 だが古代魔法の怖いところはそれだけではない。扱える術に呪術も含まれているということだ。傀儡もその一種であり、直接攻撃ではなく間接的に攻撃が出来る。

 もしも相手が傀儡を専門とした【傀儡師】くぐつしだった場合、相手はフレクトの時と同様に他者を使い攻撃を仕掛けることが出来ると言う訳だ。

 ゆえに直接攻撃しか出来ない現代魔法師との相性はすこぶる悪い。

「……わたしたちじゃ(あやつ)を見抜けない」

 それまで黙っていたローズさんが悔しそうに唇を噛む。そんなローズさんの頭を夏芽さんが撫でる。


 俺なら。

 俺だったら、それが出来る。

 呪術の解除は出来ないけれど、見破ることは恐らく可能だ。

 ―――だけど。でも……


「ねぇ、きみは頭の良い子だから分かるよね」

 俄かに室内の空気が張り詰める。

 ハッと顔を上げれば薄く微笑む夏芽さんと目が合う。

 穏やかに微笑んでいるけれど冷えた目をしているのは気の所為ではないはずだ。口調も柔らかいのにどこか突き刺すような鋭さが俺にプレッシャーを掛ける。本能的な恐怖が襲う。

「僕が言いたいこと、分かるはずだよ」

 あくまで優しく囁きかける。それがまた恐怖心を煽る。

 勿論分かっている。フレクトの傀儡を見抜けた理由ワケ

「…………」

「カノくんはさ、話す気になれない?」

 何を、と聞かないのはずるいと思ったが、そんな事は口が裂けても言えない。逸らされることのない銀青色の瞳が冷ややかに俺を映す。

 ぞくりと背中が粟立つ。


(言うか、言わないか……上手い言い訳は……無理だ、な)


 何とか回避出来ないものかと模索したものの、誤魔化しの通用する人じゃないだろうし、中央エントランスで会った時から気付いていた節もあった。

 腹を括るしかないか。

 世の中にとって俺の能力はあまり良いものではない。一部の人間にとっては有益なものなのだろうが、俺自身利用はしても口外したくないという気持ちが強かった。俺の能力を知っているのは魔法の師匠ともう一人。両親や育ててくれた伯父夫婦すら知らない俺の秘密。

 ずっと隠してきた―――けれど、今選択をしなければいけないのなら。

「……必要であれば」

 話してもいい。

 それで彼女セルキーさんが……まだ見ぬ誰かが助かるのなら。

「じゃあお願い出来るかな?」

 俺の回答に満足したのか、先程までの表情が一変『いつも』の様に優しい笑みを浮かべて夏芽さんが促す。何という変わり身。何なの、この人怖い。

「多分……夏芽さんの考えで合っていると思いますが、俺が傀儡を見抜けたのは魔法じゃありません。固有能力スキルです」

 固有能力スキルとは魔法とは別のもの。個々によって能力は様々で、魔法と連動しているスキルもあればそうでないものもある。俺の場合は連動していないタイプの能力だ。

「俺の固有能力スキルは【可視】です。意思を持って目視する事によって魔法なら術式、コンピューターならプログラム、それらが構成するあらゆる情報を読み取ることが出来ます」

「ふんふん。それで?」

「基本はそれだけです」

 俺の【可視】は【透視】や【精神感応力】とは違う。だから物を透かして見ることも人間の心を読み取ることも出来ない。ただ術式やプログラムを解析することで何をしようとしてるのか、ある程度予測することは出来る。

「視るもの何でも、という訳ではありません。自然現象や古代魔法は範疇外です」

 その最たるものがこの二つだ。

「自然現象はともかく古代魔法はなんでだ?」

 カナさんが首を傾げる。

「単純に俺の能力不足ですね。魔法師としての才能です」

 自分で言うのも何だが俺の魔法師としての能力はお世辞にも高いとは言えない。八大属性(水・火・氷・風・土・雷・光・闇)の内、水系氷系は得意だが、特別目を見張るものではない。【可視】というスキルを併せる事でようやく上級魔法師として成り立つ程度の才しかないのだ。

 古代魔法は基本的に詠唱が長い。つまり術式が長い。その上継承型魔法が多い為、簡単にばれないよう巧妙に隠されているのだ。

 読み取って解析している間に詠唱が終わってしまう。

 今回古代魔法の一種である傀儡を見抜けたのは寄生型の術で、対象フレクトにまだ痕跡が残っていたからだ。そこから何があったか割り出した。運が良かったにすぎない。

「あと古代魔法の中でも召喚術は術式を組んでないんです。あくまで召喚獣と魔法師の契約で成り立つ魔法ですから」

 俺の後に続けて夏芽さんがカナさんへ説明する。

「つまりね、『ポチーこっちおいでー』『ワン!』みたいなもので、名前を呼んだら来るんだよ。だからそこには術式は存在しない。召喚獣と契約した時点で術のショートカットが許されてるんだ。詠唱をしているのは召喚獣が降り立つ魔法陣(場所)を作るためであって呼び出す為のものじゃない」

「なるほど」

 感心しながらカナさんが頷く。

「召喚獣に聞かれたら激怒されそうですね……けどまぁそんな感じです。俺としては人工物の方が視る方が楽です。魔法に関しては俺自身にそこまで力がないので」

 自信がないですと付け加える。せめて可視能力がなくても魔法師として一人前だったら。そう思わずにはいられない。

 こんな能力、欲しくはなかった。

「それについては経験値が上がれば何とかなりそうだよ」

「ここには魔法師しかいないからね。現代魔法も古代魔法もスペシャリスト揃いだ。彼らと対戦したらいいよ。どうせウチに入った時点で魔法の訓練は必須だからね。それにカノくんだけに背負わせるつもりはないよ」

「……そうだ。お前の能力は必要だが、それだけに頼るつもりはない」

「だな! オレ達も出来ることはするぜ」

 クゥさんとカナさんが当然だ、と力強く頷いてくれる。

「カノ、だいじょうぶ。ひとりだけ辛い思いはさせない」

 とてとてと近付いて来たローズさんが、小さい手で俺の手を包んでくれる。少しだけ高い体温が手のひらから広がっていく。 

「……俺、何だか慰められてます?」

「前向きにいこう。僕らも協力するから」

「はい。お願いします」

 どちらにしろ一生付き合わなければならない能力なら上手く扱えるに越したことはない。

 こくりと頷いて知らず知らず握り締めていた手を解いた。ほっと一息ついたところで肝心なことを伝え忘れているのに気付く。

「すみません、言い忘れてたんですけど俺の可視能力は魔法干渉を受けませんが物理攻撃は受けます。なので目を潰されると見えません。ちなみに情報処理している間は魔法は使えません」

「……!」

「……!」

「……!」

「……!」

 和やかになった空気が一瞬にして凍り付く。

 四人とも笑顔を張り付かせた状態で動きを止めた。何かおかしなことでも言っただろうか?

 首を捻って先程自分が言ったセリフを思い返してみるが、特に変なことは言ってなかったはずだ。目が見えなければ目視は出来ない。目で見るのだから当然そうなる。

 じゃあ一体何をそんなに驚くことがある?

「ね、ねぇカノくん」

「はい、何でしょう?」

 いち早く理性を取り戻したのは夏芽さんだった。

「僕はさ、きみの可視能力って勝手に解析された情報が見えてるってイメージだったんだけど違うの?」

「そんな便利なワケないでしょう」

 呆れた。四人共同じコトを思っていたのか。

 俺は深々と溜息を吐いてどうしたものかと唸る。ここはきちんと説明しておかないとあらぬ誤解を生みそうだ。いや、もう生んでいるか。

 良い例えがないか考える。

「目視したモノの情報が仮想領域(脳内)で処理されて見えてるんじゃなくて、それらが構成する元になる数字や文字、術式そのもの(・・・・)が肉眼で見えるんです。ええと、そうですね……RPGの戦闘中に敵のステータスってゲームをしてる俺達には吹き出しとかで見えるじゃないですか」

「う、うん」

「あんな感じです。構成する情報がこう、対象物の前に浮かんでるというか……それを読み取って自分で解析してるんです。だから目が見えなければ読み取れない。イメージ化されたものや感覚的なものじゃないんです」

 視覚認識が必須。故に視たいモノが視界に入らないと見えない。ちなみに構成する情報が俺の知らない言語やプログラム、術式だったら可視と共に詳細解析を高速演算しなければならない。だから100%と言い切れないのだ。

 便利な能力だが無条件に使える訳ではない。理解・分解・再構築……それぞれに付随するありとあらゆる膨大な知識がないと解析出来ない。ただの文字の羅列にしか見えないのだ。

 折角和やかになりかけた空気がまた怪しくなって来た。

 しまった。これは黙っておくべきだったか……

「きみの視てる世界ってどんなの?」

「……色のない世界ですよ」

 可視能力で見える世界は、情報で埋め尽くされた黒一色の色のない世界だ。



じーちゃんばーちゃん世代とカノ達世代で決定的に違うのは、固有能力の有無です。

純粋に魔法のみを使う前者と魔法+固有能力を使う後者。


カノは現代魔法+可視能力を使う現代魔法師になります。

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