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Last Notice―特殊異能課―  作者: uka
【case2】特能課始動
13/25

事件です!!


 決して俺はコミュニケーション能力が低い訳ではない。高い、ということもないが世間一般的に平々凡々。所謂『普通』と自負出来るくらいには最低限のスキルは備わっていると思っている。

 ……そう思いたい。

 だがしかし、『普通』では目の前に広がるカオスな現実には立ち向かえないと密かに溜息を吐いたのだった。




※ ※ ※




 ―遡ること三日前―



「カーノくん」



 四月某日。

 語尾に「★」か「♪」を付けそうな勢いで纏わりついてきたのは言わずもがな、夏芽さんである。

 事ある毎に肉体的な―――変な意味ではなく―――スキンシップを図ろうとする彼の上司と部下という関係の垣根の低さも慣れれば何て事はない。

 つまるところ無視スルーだ。

「……」

「カーノーくーん? ねぇ、カーノーくんってば」

 如何なくローズさん仕込みのスルースキルを発揮する俺に、尚も食い下がろうとするその根性は最早職人芸である。

 左右上からテーブルでプログラミング用語辞典を眺める(読むではない)俺の顔を覗き込む夏芽さんは眉をハの字にして今にも泣きそうだ。

 仕方が無いので最終的に下から覗き込まれる一歩手前で折れることにした。

「おはようございます。良い朝ですね」

 パタンと本を閉じた俺はにっこりと微笑み、さも今気付いた風を装って頬を膨らます夏芽さんに向き合った。

「カノくんて根性据わってるよね」

 うなだれる夏芽さんは泣き笑いを浮かべた。

 根性が据わってるというのは語弊がある。『据わらざるを得なかった』の間違いだ。更に言及するならば原因を作ったのは夏芽さん本人だ。

「ありがとうございます」

 特能課に配属されて三週間余り。この頃には軽口を叩ける位には特能課に馴染みつつあった。

 それは夏芽さんやローズさん、カナさん、クゥさんのお陰だ。それに食堂で会う他課の班員も気さくな人が多いからに他ならない。

 勿論全員と顔を合わせている訳ではないので100%の断言は出来ないけれど、それでも気の良い人が多いのは確かだ。

「あのね」

「はい」

「今日は外勤お願いしたいんだ」

「外勤、ですか?」

 早くも立ち直った夏芽さんがひらひら書類を掲げて人の悪い笑みを浮かべる。

 俺は目の前で揺れる書類を抜き取りギッシリと書かれた文字を流し読みをした。

「『対応依頼書。先だってお願いしていた案件の正式な依頼をお願いします』……ってランドガールの?」

「そ」

「ランドガールって生活安全課だったんですね」

 とかくこの国家保安局は規模が大きい。

 国の機関を一箇所に集めたが為に色々な職や課や所属があり、まるでおもちゃ箱の様にごちゃごちゃしている。

 まだ組織全体について教えて貰っていないのだが【国家保安局】と言われればLast Noticeや勿論その内部部署である俺達、レベルE、技術開発部と言った独立した組織も含まれるが、【保安局】だけだと保安局本部を指すらしい。

 ただ、【国家】と付けるのが面倒で【保安局】としか言わないことも多いのだが、保安局本部以外を指す時は【Last Notice】【レベルE】【技術開発部】と言った固有名称を使う。

 生活安全課の所属は保安局本部になり、業務上俺達とは接点が無い。どちらかと言えば箱庭ルーヴェリアの警備に当たっているレベルEと警護対象として行動を共にすることが多い様だ。

 それは兎も角。

 実際見た事はないが、箱庭ルーヴェリアのイメージガールを務める彼女達は噂に聞くところによると相当な美女揃いらしい。

 クゥさんはそんな彼女達に何故か及び腰の様だが、夏芽さんとカナさんは至って平静、困ってるから助けるスタンスでいる。

 まぁこの話を持って来たのはその二人だから、というのもあるのだろうが。

「彼女達は若くて可愛い子ばかりだからこういうイタズラが絶えないんだけど、寮は厳重な警備をしてるしファンとは考えにくいんだよ」

 夏芽さんは首を捻って長い足を組む。その姿が何と様になることか。

 眉根を寄せ切なげに溜息を吐く。たったそれだけの仕草で周りは感嘆の声を上げる。憂いを帯びた美青年とはかくもこう視線を惹きつけて離さないものなのか。

 本人からすればただ首を捻っているだけだが。

 特能課のメンバーは俺を含め無反応なのは致し方あるまい。先人は名言を残してくれた。『美人も三日で飽きる』まさにその通り。超絶美形も三日は言い過ぎだが一週間もあれば慣れる。

 いくらキラキラに輝いていていたとしても、だ。

「そうですよね。女性の後ろを付いて回るだけの人間に保安局のセキュリティを突破出来るとは思えません」

 この依頼をカナさんが最初に持って来た時はかなり面倒だと思ったが、詳しく調べてみるとセキュリティ関係の事件と聞いて少しやる気が湧いて来たのだった。

 例えそれが特能課の本来の仕事からどんどん掛け離れていって、最早便利屋的なものになってしまったとしても、機械的なモノならば不謹慎にも心が躍ってしまうのだ。

 俺は厳重な保安局のセキュリティシステムを突破した人物が一体どんな人間なのか思いを馳せ「じゃあ今日は僕と外勤だね」とはしゃぐ夏芽さんに「ハイハイ」と適当に返事をしながら、事の発端を思い返していた。




※ ※ ※




 ―更に遡ること五日前―



「はぁ」

「んだよカノ! こりゃあ一大事じゃねーか」

「まぁ、一大事と言えばそうなんでしょうけど」

「オンナが困ってんだぜ? 助けてやるのがオトコってもんだろ!?」

「カナさんてこーゆー時、男気ポイント根こそぎ持っていきますよネ」



 特能課ミーティングルーム。


 今日は役職者会議という夏芽さん、ローズさんが一日席を外し、クゥさんは科学技術課へ呼ばれて出勤早々に出て行った。

 そんな訳で今日は俺とカナさんだけが課に残っていたのだが、他の課と違って仕事がない。

 午前中から昼食を挟んで午後になっても、俺はミーティングルームの長テーブルの上に大量の紙を置き、せっせとアカツキさんから頼まれたいつ使うのかも分からない紙吹雪を袋に詰めていた。

 一枚取ってはハサミでちょきちょき。

 ……すごくむなしい。

 カナさんはと言えば意気込んで話した【一大事】に対して反応の薄い俺を見ると、唇を尖らせながら椅子を引っ張って来て隣にストンと座った。

 背もたれに肘を置き、そこに顎を乗せる。

「男気ポイントとか知らねーけどさ、乗りかかった船というか何とか出来るんなら何とかしてやりてぇんだ」

 拗ねるというより淋しそうにポツリと呟く。

「カナさん……」


 お昼休み終了間近に保安局内の複合商業施設、ARIAへ昼食を食べに行っていたカナさんが大事件だとバタバタと戻って来た。

 話を聞いてみるとアボカドとスモークサーモンのサンドウィッチが無性に食べたくなったらしいカナさんは、ARIAに隣接する女性に人気のお洒落カフェ【ノーム】に行っていたそうだ。

 正直そんな情報はどうでもいいと思ったが、その女性客で賑わうお洒落カフェに一人で乗り込んだカナさんは、そこでランドガールの三人と相席になった。盗み聞きするつもりは毛頭無かったが、何せ相席な訳で会話は筒抜け。


『一体誰なの……?』

『気持ち悪い』

『アイツじゃないの?』

『そうだよ! アイツ以外考えられないっ』

『課長に相談する?』

『でも、あんなこと課長に言い辛いよ』


 と、ひそひそ聞こえて来た話が気になり、声を掛けた。

 すると待ってましたと言わんばかりに彼女達が矢継ぎ早に喋り出したそうだ。「相当困ってたんだろーなぁ」なんてカナさんは言っていたけど、多分違う。

 被害自体が嘘だとは思わない。でもきっと彼女達に微妙な下心があったと俺は思うんだ。

 夏芽さんがあまりにも超絶美形過ぎて感覚がおかしくなってしまったのか、はたまた慣れてしまったのか分からないが、カナさんも結構なイケメンだ。それに加えてLNのピンバッチも女性ならしっかり見ていた筈。

 非公開課《俺達》のことは知らなくてもLast Noticeは知っているから彼女達の目にはさぞや頼もしく映っただろう。いや、勿論本当に頼りになるのだが。

 まぁそういった経緯があり、同情して話に乗っかってしまったが最後、自ら『俺が何とかしてやるぜ!』と言って帰って来たとのこと。


 安請け合いするなと言いたい。

 言わないけど。


「……良いヤツだからな、カナは」

「あ、クゥさんおかえりなさい」

「ただいま」

 言いたいことをグッと堪えてカナさんの話を聞いていたらクゥさんが帰って来た。

 俺の顔を見て微苦笑を浮かべながらもクゥさんはやんわりカナさんの擁護に回る。

「おーお帰り!! 仕事だぜクゥ」

「聞こえてた。誰からだ?」

「ランドガールからの依頼」

「ランドガール? よく彼女達からこっちに連絡取れたな」

「昼メシ一緒になってさ。そん時に直接聞いたんだ」

「ああ、成る程」

 クゥさんは合点がいったという様に頷いた。

「俺は直接は手伝ってやれないが、出来る限り協力しよう」

 そう言ったクゥさんの顔が微妙に歪んだのが気になったが、カナさんが声を上げたので聞くことは出来なかった。

「分かってるって! あの時の二の舞はオレも御免だからな」

 含み笑いをするカナさんと眉根を寄せ嘆息するクゥさん。

 先程の微妙な顔はやっぱり何かあったのだろう。誰と何があったのか知らないが、表情から察するに相当うんざりしている様子だ。でも協力はするというのだからクゥさんは人が良い。

「じゃあ受けるんですね、その依頼」

特能課ウチで受けるなら所属が違うから保安局本部から正式な依頼があってからだけどな。あの娘たちもこれから上司に報告するって言ってたし、多分班長にまで話が来るぜ。ま、保安局から依頼がなくても何とかするけど」

 一応正式に依頼を貰うつもりの様だが、依頼がなくてもやっぱり彼女達の憂いを払うつもりらしい。

 俺はと言えばまだこの段階では乗り気ではなかった。

 それにたかがあれだけの為に彼女達の上司や保安局本部が動くとは思えなかったのだ。



「下着ドロの捕獲、か」



 人知れず漏らした言葉は誰に聞かれることもなく空気に溶けて消えた。




 それから。

 翌日、本当に夏芽さんはこの話を持って来た。正式ではないが、彼女達の上司から打診があったらしい。二つ返事で了承した夏芽さんは「多分来週早々には対応依頼書が来ると思う~」と言ってカナさんを喜ばせていた。


 そうして特能課による《ランドガール下着ドロ捕獲作戦》が決行されたのだった。



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