そうして運命は廻る
きっときみは覚えていない。
けど僕らはあの日あの時きみに出会えたことを運命だと思っているよ。
「さぁ迎えに行こうか♪」
「……嬉しい?」
「そう、だね。僕らの可愛いベイビーちゃんにようやく会えるんだから」
「今度こそ守ってみせる」
「うん。今度は手放したりしない」
会いたくて仕方なかった。
あの時たった一度、ほんの数秒目が合っただけの名前も知らない男の子。
それでも僕らはあれからずっときみを探してた。
十年以上の月日が流れたけど『きみ』だと一目で解った。
ようやく会える……
※ ※ ※
暦の上ではもう春なのに、未だ吹雪が荒れ狂う三月の終わり。
十九歳の俺は人生の岐路に立たされていた。
今日は二週間前に受けた国家保安局の公務員試験合格発表日だった。『合格発表』というと学校のような感じがするが、合否の連絡をするにも受験者数が多い為、発表は保安局の正面に設置してある電光掲示板で行うと最終面接の時に聞いた。
個人情報の規制が厳しい昨今において名前を晒すなんてどうなんだろうと思ったが、そこは本人しか分からないように仮想端末からアクセスし、擬似モニターからの情報を電光掲示板に投影して合否を確認するらしい。仮想端末とは文字通り実体を持たない端末で、『思い浮かべる』ことにより視覚操作出来る。
そんな訳で俺もボストンバッグから取り出した受験票を片手に仮想端末へアクセスしたのだが――
「…………」
何度見返しても変わらない目の前の巨大電光掲示板の文字。
流れる黒字の可愛らしいPOP体は間違う事なく俺のフルネームを流し続けている。既にこの状況を目視し始めてから数十分、吹き荒ぶ雪の激しさはまるで俺の脳内を表しているようだ。
「…………」
もう一度(と言っても実際は二十回目だが)手元の受験番号が書かれたカードを見る。
間違いない。
受験番号:11291128
氏名:水方叶
希望職種:国家保安局 技術開発部 国際電脳班
……だよな。
何度見たって変わらない。
何度目か分からない溜息を吐いた俺は覚悟を決めた。
手足はとっくに冷え切って感覚は失われている。
厚手の黒いモッズコートは雪まみれでアレ? もしかして最初から白かったのかな? と勘違いしてしまう程だ。
本音を言えばもう少し現実逃避をしたいところだがそういう訳にもいかない。
保安局の敷地内、と言っても局の入口よりは外へと通じる門の方が近いが―――いつまでも突っ立っていると門の前で入退出を管理しているヒューマノイドに不審者扱いされてしまう。
左手のボストンバッグに受験票を押し込み拳を握り締める。そしてぷるぷると頭を振ってこんもりと積もった雪を払った。
眼前に聳え立つ建物を睨み、気合いを入れる。
「男は、度胸っ!」
パンッと頬を叩くと保安局の入口へ向かって歩き出した。
希望職種と違おうがこの際どうでもいい。
どちらにしろ俺に選択の余地はないのだから。
★information★
―――受験番号11291128
水方 叶
国家保安局 レベルE所属
特別戦闘部隊 Last Notice内 特殊異能課 合格
尚、こちらをご覧になられましたらレベルE受付までお越し下さい―――