日光浴してみる
隣国、サベル国との緊張状態が続く中、私は相変わらず幼竜君の日光浴に付き合っていた。
最近は私の名前を噛まずに言えるようになったり、1日会わなくても体調を崩すことがなくなってきて、徐々に巣立ちの為のステージを上がっていってくれている。
《シェラ!アッタカイ!ポカポカ!》
「暖かいな…」
膝に乗っている幼竜君を撫でながら、午後の時間をのんびり過ごせるのも今だけかもしれない。
幼竜君もだいぶ大きくなって、今では最初に会ったときの5倍くらいの大きさになっている。
普通の人間なら足がしびれて大変な事になりそうだ。
《ヘイカ、キタ!》
…またか。
とゆうより、私が昼間からここにいるのが久々だから、ルーとも久々か?
「やぁ、シェラ、幼竜君」
にこやかに隣に普通に座ってくるし。
「今日は仕事ないんだね。随分久振りな気がするよ」
確かにここ二週間ばかり雑務で飛び回ってたから、やはり久々なのだな。
「今日は久振りに1日休みにしてもらいました。最近休みなく飛び回っていましたから」
「シェラ達、魔導騎士隊達のおかげでとても助かっているよ。君達がいなければとっくに開戦していてもおかしくない、ありがとう」
偉ぶらず、臣下にすら素直に礼を言えるルーのことが、とても尊敬できる。
昔のまままっすぐ成長したのだろう。
辛いこと、苦しいこともあっただろうに。
「陛下こそ無理をなさらないようにしてください。あなたの代わりはいないのだから」
「私だけではないさ、シェラの代わりもいない。誰も誰かの代わりにはなれない。命は一つなのだから」
たとえ何年経ってもルーの本質は変わらない。あの頃のままだ。
離れていてもいつも一緒。あの言葉に偽りはない。
今も、これからもずっと一緒だ。
会いにきてよかったと今なら思える。
君の力になれることが、とても嬉しい。
***
いよいよ隣国サベルとの戦いが避けられない状況になってきた。
両国の防衛線には着々と兵達が集まってきている。
私も密偵として度々任務に出ているが、今回は小競り合いというレベルでは収まらないだろう。
大きな戦いになりそうだ。
幸いにも幼竜君の巣立ちは間に合ってくれたので、心配はない。
寂しがりやは相変わらずだが。
そういえば、ルーやハミル達も戦いの準備に忙しく、随分会っていないな。
「シェラ!」
魔導騎士隊の隊舎の廊下を歩いていると、前からデールと隊長が歩いてきた。
「丁度よかった、シェラ。デールと2人で明日1番に防衛線に先行してくれ」
いよいよか…
何百年経っても人は争うことを辞めようとしない。
だが、私には守りたいモノがある。
ルーが守りたいモノを、私も一緒に守りたいんだ。
「了解しました」
***
今日中に出撃準備をしなければいけないが、しばらく会えない幼竜君と最後の日光浴をしよう。
巣立ちをしていても、甘ったれで寂しがりやな君。
小さな体を膝に乗せて日光浴していたのが、既に懐かしいよ…
これからパートナーと出会って、名を付けてもらって、戦闘訓練をしていくことになるんだろうな。
竜騎士の隊舎に向かって歩き出すと、後ろから声を掛けられた。
「シェラ!幼竜君に会いに行くのか?私も一緒してもいいかい?」
…ルー、君は暇なのかい?
***
はい、ただいま絶賛日光浴中です。
ルーも一緒に、幼竜君とのんびり日光浴してます。
相変わらず懐いてくれている幼竜君の頭を膝に乗せて、ぼんやり空を眺めていると、もうすぐ大きな戦いがあるなんて嘘のようだ。
「こんな時間もこれからは取れなくなるな。シェラも魔導騎士隊だから、戦いに出るのかい?」
「はい。明日、前線に向かいます。ですから幼竜君と最後の日光浴をと思いまして。帰ってきたら、もう立派な成体になってるでしょうし」
私の言葉に驚いたように顔を上げたルーは、幼竜君を撫でる手を止めた。
「そうか前線に…。今回の戦いは大きなものになるだろう。……死ぬなよ」
「はい」
「必ず、生き残れ。死ぬことは許さないからな」
「はい」
多くの言葉はいらない。
帰る意思と生きる意思。
それさえあれば、大丈夫。
私もルーも死なない。ルーは私が守るから。