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調べてみた

 お互いにルーとヴィーと呼び合うようになった8日目。


 ルーが子供らしい笑顔を向けてくれるようになった。


 やはりあの子には笑顔が似合う。


 澄んだ蒼い瞳もキラキラと輝いて、とても美しい。


 毎日不安で、甘えることができず張り詰めていたのだろう。


 それが昨晩の一件から見事に剥がれ落ち、今は子供らしい笑顔を見せてくれている。


 正直、こんなに情が移るとは思わなかった。


 ルーが可愛い。


 ルーが愛しい。


 自分がこんな感情を持つなんて。


 だからといって、ほんとうにこのままずっと、といわけにもいくまい。


 あの子の素性を調べる為に、昨晩の人間達に糸を付けておいた。


 こんな場所まで逃げなくてはいけない訳とは?


 一緒に逃げてきたであろう誰かも、この森を逃亡先に選んだのは最後の賭けだったはずだ。


 そこまでして、逃がそうというのだから、ルーは何かの権力争いにでも巻き込まれたのだろう。


 そして、とても大事にされて、愛されていた…。


 どんなに情が移ろうとも、どんなに愛しくても、人の子は人の世界で生きた方が良い。


 ルーには帰る場所も、待っている人もいるはずだから。


「ヴィーどうしたの?なんか難しい顔してるよ?」


「いや、たいしたことじゃない。昼は何を食べようかと考えていただけだよ」


 今は何も聞かない方がいいか…。


 まだ、心の傷は癒えていない。


 ルーが昼寝してる時にでも糸を辿ってみるか。


 追跡の魔法をかけておいてよかった。


 ***


 昼食は一緒に作り、一緒に食べる。


 ルーが来てからの日課だ。


 食事が終わり、椅子に座って読書をしていたら、前に座っているルーの頭がカクンカクンと上下に揺れていた。


「ルー?眠いならベッドへ行きなさい」


 昼食後に椅子の上でウトウトしてるルーに苦笑しながら、声をかけた。


「うん、お昼寝してくる…」


 そう言ってベッドに横になるとすぐに規則正しい寝息が聞こえてきた。


 寝付きのよさは最高だな。


 ルーが完全に寝入ったのを確認して、魔力の糸を辿ってみることにした。


 目を瞑り意識を糸に集中していると、ずいぶん騒がしい音が頭に響いてきた。


 ここは…、そうだ、人間の世界の食事をする場所だ。


「おい、森の捜索は打ち切るんだってな。また探しに行けとか言われなくてよかったよ」


「王子と一緒に逃げた騎士は捉えられたらしいな。さすがに子供1人では、魔の森は生き残れんだろう」


「あぁ、あの森は入ったら帰ってこれんと言うし、俺たちもあれ以上深く潜るのは危険だったしな。そもそもあそこに逃げること自体が自殺行為だろ」


 …ふむ。王子だったのか。

 継承権争いに巻き込まれたか…。


「とりあえず、長いものに巻かれろってな。正直カザフル殿下は好かんが、俺達も命は惜しいしな」


「確かに、王弟殿下の良い噂は聞かないな。ルーべシオン殿下がもう少し大人ならなぁ」


「だが、まだ反王弟派は諦めていないと聞くぞ?」


 ……。反王弟派に逃がされて森まで逃げてきたのか。


 とゆうことは、まだ反王弟派はルーの生存を信じて、今も水面下で動いているんだな。


 しかし、ルーが生きていると知らせるにしても、反王弟派が誰かもわからんしなぁ。


「あ!そろそろ牢番の交代だ。じゃあな」


 3人のうち1人の騎士が席を立って牢に行くらしい。ついていってみるか。


 確か、ルーと一緒に逃げた騎士が捉えられたと言っていた。運が良ければそこにいるかもしれん。


 ***


 薄暗く湿った空気の中で、先ほどの騎士が交代の騎士と引継ぎを行っている。


 私は奥に視線を凝らしてみた。


 奥の突き当たりの牢に、誰かが繋がれているのが見える。


 引き継ぎが終わった騎士が、奥の牢の前に近づいて、所定の位置に立つ。


 たった1人の人間に見張りを付けているということは、余程の重要人物らしい。


 見張りの騎士は、牢の中の人間に話しかけた。


「あんたも運がなかったな。森の捜索は打ち切られたよ。子供1人ではあの森では生き残れんだろう」


 牢番からの言葉に一瞬ピクリと動いたものの、何も返すことなく沈黙がその場を支配していた。


 この男がルーとともに森まで逃げてきた騎士で間違いないだろう。


 だが、拷問を受けたのか満身創痍だ。


 ふむ。知らせるべきか…。否か。


 だが、あの子はこの男の、いや反王弟派にとっての唯一の希望だろう。


 私は牢番の騎士に繋いでいた糸を一度切り、牢に繋がれている男に繋ぎ直した。


 《聞こえるか?》


 男はビクッと体を揺らしたが、それに牢番の騎士は気づいていない。


 《頭に直接話しかけている。そのまま聞け。私は魔の森に住む者。7日前にルーと名乗る少年を保護した》


 男は身じろぎもせず、私の声を静かに聞いている。


 《すぐには信じられないかもしれないが、ルーの置かれている状況は大体理解した。お前達が迎えに来るまで安全に私が保護しておく。だから必ず迎えに来い》


 そう言うと、男の顔が一瞬だけ笑ったように見えた。


 《魔の森には主がいると聞く。あなたがその主か?》


 《人の世界でいわれている、迷い人を喰らうとゆう主なら、違うと答えよう。私はただ、あの森で静かに暮らしているに過ぎん》


 《あなたが、どのような思惑で王子を助けたのかは私にはわかりませんが…。今はあなたの存在に感謝します。王子を助けて戴き、ありがとうございます。必ず、必ず王子を迎えに行くと伝えてください。私の名はハミルと言います。王子の護衛騎士です》


 確かな希望を見出した男の瞳は、決して諦めないという強さを秘めていた。


 《必ず伝えると約束しよう。私の名はヴィーという。ところでハミル?牢から逃げる当てはあるのか?》


 《深夜の牢番に、仲間が来る予定です。王子が無事なら、皆の士気もあがるでしょう。亡き陛下の為にも必ずや王子を国王としてお迎えにあがります》


 《私の追跡の魔法はハミルに繋いでおく。ルーを迎えに来る時は知らせてくれ》


 《王子をよろしくお願い致します》


 確かに伝えよう。


 ルーは人の子。


 人の子は人の中で生きるべきなのだ。


 ***


 意識を自分の体に戻すと、ベッドの上でルーはまだ寝ていた。


 まだ未来は決まっていない。


 もし、迎えが来なくても、ルーと共に穏やかに暮らせばいい。


 だが、伝えることはルーにとって、生きる希望になるはずだ。


 そして私は、これから起こるどんな未来も受け入れよう。


 今までのように、これからも…



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