魔族と戦ってみる
仲間達が撤退中に、時間稼ぎも兼ねて、魔族に疑問に思った事を尋ねてみることにした。
「この戦争への介入は、おまえの独断か?それとも魔族の総意か?」
私が時間稼ぎをしていることに気づいているだろう魔族は、それでも余裕な態度で笑みを浮かべている。
圧倒的強者である自信故か…
「言っただろう?余興だと。退屈だったんだよ。暇だから人の世界に来てみたら、好きなようにしていいから、敵国を倒してくれと言われてな。面白そうだから、遊んでみたんだ」
…遊びだと?
人の命を遊びで奪う?
「では、おまえの独断なんだな?ならば、おまえを倒しても、魔族が攻めてくることはないな?」
自分を倒すと言われ、一瞬キョトリとした魔族は、何が可笑しいのか激しく笑いだした。
「プッ!あはははは!!倒す?人間ごときが、俺を?なんの冗談だ?」
「何が可笑しい?」
私が本気で言っている事に気づいた魔族は、真紅の瞳を細め、薄っすらと笑みを浮かべた。
「魔族を舐めるなよ?人間」
「私を舐めるなよ?魔族」
互いに睨み合いながら、出方を伺う。
仲間達は遥か後方へと下がった。
私を残すことに異を唱えて、共に戦うと言っていたルーも、ハミルが無理やり連れていってくれた。
魔族の体からは、濃密な魔力が放出されている。
普通の人間なら、耐えられず、意識を落としてしまうだろう。
「悪いが…手加減などしている余裕などないのでな、全力でいかせてもらう」
私は、魔族が行動を起こす前に、瞬時に練り上げた魔力を叩き込んだ。
侮っていた人間(人間じゃないけど)からの、予想を上回る攻撃に、受け身を取る暇もなく、十数メートル程吹き飛ぶ。
…あれぐらいでは傷ひとつつかないか。
先程までと違って、険しい顔をした魔族は、あきらかに警戒しながら此方を伺っている。
「おまえ…人ではないな?その魔力…おまえも魔族か?」
失礼な奴だ。
私を魔族と間違うなど!
「そんなわけあるか!人でないことは認めるが、おまえと一緒にするな!」
「では、おまえはなんだ!?」
かつて何百年も昔、竜族と魔族は長い間戦いを繰り返していた。
長く辛い不毛な戦いは、お互いを疲弊させていくばかりだった。
空は荒れ、大地は荒廃し、仲間達は次々に死んでいく。
このままではいけないと、竜族の王と魔族の王は、互いの領土に踏み入らないことを条件に、この戦争を終わらせた。
魔族達は魔王の力で作った魔界を新たな住処としこの地を去り、龍族はこの地に残り、荒れ果てた世界を癒しながらひっそりと暮らす事を選んだ。
それ以降、互いに不可侵であったはず…だったのだがな…
「私は、私以外の何者でもない。不可侵の掟を破り、この世界に来た魔族よ。自らの死をもって償え」
私の体からは銀色の魔力がユラユラと揺れながら、ただ前にいる敵を滅する為に放出されていく。
「お、おまえは…まさか!」
「私は、私の大切なモノを傷つけようとするおまえを許さない!」
人ではありえないはずの濃い魔力の放出に、初めて焦り出す魔族。
だがもう遅い。
「…死ね」
純粋なる力の塊である私の魔力の直撃を受けた魔族は、かけらひとつ残すことなく、この世界から消滅した。
人をアンデットにし操っていた魔族が死んだからか、敵兵達がチリになって消えてゆく。
…疲れた。
人の姿に変じたまま、竜の力を出すのは体に負担がかかりすぎたようだ。
遠くから、隊長やルーの声が聞こえる気もするが、もう意識を保つのも難しい。
大丈夫。私はココにいるから…
ゆっくりと傾いでいく体を止める術もなく、私の意識は闇に溶けていった。
***
「ん……んんッ??」
目を覚ました瞬間、目の前にあったのは幼竜君のどアップだった。
部屋の窓から頭だけを突っ込んで、覗き込んでいる幼竜君は、もう幼竜サイズではないから、部屋には入れないようだ。
《シェラ!オキタ!シンパイ、カナシイ》
どうやら、心配をかけてしまったようだ。
「心配してくれてありがとう」
幼竜君の頭をナデナデとしながら、部屋を見渡してみたが、見覚えのない部屋だ。
どのくらい意識を失っていたんだろうか?
無理に竜の力を引き出して、倒れたとこまでは覚えているが、その後運ばれたんだろうな…
戦いはどうなった?
敵兵達がチリになっていくのは確認したから、こちらの勝利で終わったんだろか?
それより…魔族との戦いを見られてしまった…
感のいい人間なら、何か気づいたかもしれない。
国から出ていけとか言われたらどうしよう…
はぁ〜