表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/34

第八話 怪談編 Part3

 五十嵐「それじゃぁ、次はなっちゃんだね……」


 意気消沈し、舵取りが出来なくなった大島に代わり、その場の流れで何故か怖い話に不本意だった五十嵐が仕切り始める。


 浜田「ん〜。実のところ僕もそんなに怖い話って詳しくないんだよね」

 山崎「ならやめとくか?」

 浜田「でも、大島が……」


 と、大島の方を向く浜田。


 大島「いいお〜。別に話さなくってもいいお〜〜」


 浜田(これはこれで、気の毒なんだよね……)


 いじけてちゃぶ台の前に座る大島。耳をかくと、浜田はうーんと悩みだした。


 浜田「昔話みたいな物だけど良いかな?」

 山崎「全然OK」

 五十嵐「い、いいよぉ〜」


 五十嵐は既に涙目になっている。


 大島「別になんだっていいお」


 超投げやりな大島の同意を持って、浜田は咳払いをし、語りに入った。


 浜田「


 江戸時代にね、一本首桜というそれはきれいな花を咲かせる桜の木があったそうなんだ。

 一本首というのは、その木がそこに立てられたきっかけに由来していてね。戦国時代にある高名な落ち武者の首の褒章として植えられたからその名前が付いたんだ。一本の首が縁で植えられたから、一本首ってね。

 ある春のこと、その一本首桜が血のように真っ赤な花を咲かせた。その余りの見事さは、近くの大名様が一本首桜を見に出向くほどで、村人達もこぞっては出かけその眺めを楽しんだ。

 しかし、この桜。なぜか、今年は六月に入っても花を散らさない。それどころか、七月・八月・九月とたっても枯れるどころかますます紅くなる一方。

 これには流石に肝を冷やした村人達は、もしや落ち武者のたたりではと村を上げて供養をした。それでも尚、紅さは落ちることは無い。

 もうどうしようもない。村人皆がそう思い、会議の結果、罰当たりにもその木を切り倒すことにしたんだ。


 が、切り開いてみて驚いた。


 なんと、桜の年輪までが真っ赤に染まっていたのだ。そして、切り倒した斧には血のように赤い液体が。

 呪われてはたまらんと、木を切り倒した村人達は一目散に家へと戻って戸を閉めた。その日は流石に村の誰もが、一本首桜の前を通ろうとはしなかった。


 一晩明けて。村人がおそるおそる一本首桜の前を通りかかると。

 なんとそこは血の海になっていた。


 それから何日もの間、一本首桜の周りは血の海のままだった。まるで、人間の傷から血が滲み出すように、じわりじわりとそれは湧き出てくるのだ。そんな様を見れば、村人達も正気ではいられない。呪われると思いながらも村人達はついに、根元から一本首桜を処分することに決め、一本首桜の周りを掘り起こすことにした。

 しかし、流石にそんな不気味な木にこれ以上係わりたいという物は居ない。

 そんなところに、一人の浪人が差し掛かった。

 村人達はこれ幸いにと、浪人に桜の掘り出しを頼んだ。浪人は快く引き受けると、たった一人で日が昇りきる前に木を掘り出してしまった。これにはたまげた村人達。すぐさま浪人の前に集まり、その力を称えた。


 と、そこで誰かの悲鳴がこだまする。


 なんと、掘り起こした桜の下に五つ、六つの大きな桶が。しかも、桜の木が根を張っていたらしく、桶の蓋には穴が開いていた。

 もしやとおもった村人が、その桶の蓋を開ける。


 すると中には、紅い紅い血の海が広がり、その中に二・三の骸骨が浮かんでいた。


 村の長寿に聞けば、桜の木下には落ち武者との戦いで死んだ村人達を供養のために埋めたという。

 つまり、桜は死んだ村民の血を吸って紅い花を咲かせていたんだ。

 それに気付いた村人達は、何のことはないと胸をなでおろし、その後であれほど見事な桜を切ってしまったと、一本首桜のことを悲しんだ。そして、せめてもと想い桶の中の仏様たちを改めて供養してやることにした。

 村人達は桶に溜まった水を全て出し、そして底に溜まった骨を集め改めて墓に埋葬することにした。これには村をあげて皆が協力し、通りがかりの浪人も快く協力した。


 やがて、最後の桶に手をつけた。最後の桶はやけに軽く、木もその桶には根を張っていなかったらしく、蓋に穴は開いていなかった。村人がその蓋をどける。


 桶いっぱいに溜まった血。血を捨てると其処から出てきたのは、なんと鎧をつけた死体だった。それも、何故か骸骨化していない。戸惑う、村人。と、そのとき、浪人がいきなり飛び上がりその死体を奪い取った。


 「体は返してもらったぞ!!」


 そう叫ぶと、いきなりその浪人の顔が鬼の顔に変わり、息つくまもなく山を飛び越えていった……


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 五十嵐「……そんなに怖くないね」

 浜田「まぁね。昔話みたいな感じだからね」

 五十嵐「鬼が黒幕だったって事でいいのかな?」

 浜田「たぶんね」


 大島「さぁ、次は漏れの番だお」


 嬉々として浜田の前の蝋燭を吹き消すと大島は言う。先程の話がつまんなかったかどうかは別として、大島のモチベーションを回復させることはできたらしい。


 浜田(よかった、少し元気が戻ったみたいだ)


 浜田は何も言わずに微笑んだ。

 しかし。


 山崎「お、おい皆……」


 珍しく怯えた様子の山崎。歯をカタカタ言わせ何やら浜田の後ろを指差している。

 と、ここで他の三人が一斉に振り向く。


 五十嵐「え!?」

 浜田「うぇ?」

 大島「お」


 其処には大きな桜の木が立っていた。しかも、先程の浜田の話と同じく、真っ赤な桜を咲かせている。


 浜田「こ、これはいったい……」

 五十嵐「き、きっと…… なっちゃんの話が幽霊さんたちを呼び寄せちゃったんだよ」


 それを幽霊の類だと認識したのか、五十嵐はガタガタと膝を揺らして驚く。が、五十嵐よりも霊感の低いはずの大島はじっとして動かない。


 山崎「ちょっと、やばくないか?」

 浜田「けど何でこんなジャングルの奥地で日本の幽霊が……」


 と、そのとき。鬼火が桜の木の周りを舞い、血飛沫がどこからとも無く桜の周りに散った。


 五十嵐・山崎「「ぎゃ、ギャー!!!」」


 五十嵐と山崎は驚いて後ろに飛びのく。そのとき足を引っ掛けたのか、ちゃぶ台が音を立てて揺れた。


 ???「う〜ら〜め〜し〜や〜」


 五十嵐「悪霊退散!! 悪霊退散!! あっちに行って〜!!」

 山崎「てめぇ、それ以上こっちに来たらぶっ殺すぞ!!」


 ???「死んでる人間を殺すことなどできるか〜!!」


 もやがかったものが、桜の周りに現れる。それはいわゆるステレオタイプな幽霊で、頭に毛が三本生えているような感じだった。


 五十嵐「うぁぁあああ!!! やっぱり!! こんなことしてるから幽霊を呼んじゃったんだよ!! 島ちゃん何とかしてぇ!!」

 山崎「そうだ大島、それと浜田!! 何とかしろぉ!!」


 棒立ちの大島と浜田。と、放心状態かと思われた二人であったが、不意に口元に笑みが浮かぶ。


 大島「わかったお」

 浜田「この話をしたのは僕ですしね」


 と、つかつかと桜の方に歩き出した。

 驚く人間二人と幽霊。


 ???「お、お前達!! 私に何する気か知らないが、罰当たりだぞ。こちとら、幽霊なんだぞ!?」


 やたらうろたえる幽霊。そんなことにも聞く耳持たず、つかつかと歩み寄る二人。


 大島「浜田、後ろから押さえつけてくれだお」

 浜田「分かった。ほどほどにね?」

 ???「ちょ、おま。何する気だ。ま、マテ!!」


 問答無用に浜田が幽霊を押さえつける。


 ???「へ、平和的に話し合おう。な? そうすれば分かり合える。うん」


 大島「どうでもいいけど、中身が出てるお」


 ???「え!?」


 幽霊はとっさに下を向いた。


 大島「嘘だお」


 幽霊の顔面にパンチが炸裂。ぐぅと言う音を上げて、幽霊は地面に倒れこんだ。

 そして、その足元には、見るからに足と思しきものが付いていた。



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



 五十嵐「でも、どうして気付いたの?」


 幽霊を簀巻きにした四人は、幽霊を取り囲みつつ談笑する。


 大島「幽霊の雰囲気じゃなかったお。鮮明に見えすぎてて、あからさまに生きてる感じだったお」

 浜田「僕は遠目に布かぶってるって言うのが分かったんだ」

 五十嵐「何で?」

 浜田「ん〜。仕事柄かな?」


 先程から幽霊を睨みつけているのは山崎。よくも怖がらせてくれたなといった感じで、がんを飛ばしている。それに終始ビビリまくりな幽霊。既に頭から上の方は汗でびっしょりで、スケスケだった。


 幽霊星人「すみません。私は、U01星雲から来たオバケ太郎左衛門といいます」

 山崎「ほう。その太郎左衛門さんが一体俺達になんのようだ」

 幽霊星人「いえその…… 私達宇宙人は他人を驚かすことにより分泌される、オドカシルフィンという成分を摂取して生きてるんです」

 山崎「つまり俺達を驚かして、そのオドカシルフィンを摂取しようと思ったわけか」

 五十嵐「まったく、なんて酷い子なの!!」


 五十嵐が顔を膨らませて怒る。浜田はなんともといった感じで苦笑いをしている。


 浜田「で、そのオドカシルフィンはどうやって摂取するつもりだったの」

 幽霊星人「その…… オドカシルフィンというのは人間の冷や汗に含まれるんです……」

 山崎「ほほう」


 山崎が邪悪な笑みを浮かべる。すると、いきなり靴と靴下を脱ぎ捨てて幽霊星人の前に出す。


 山崎「舐めろ」

 幽霊星人「ぇ」

 山崎「冷や汗から摂取するんだろ? 協力してやるよ」


 五十嵐・浜田・大島(((キレテルー!?))お)


 山崎「それとも何か、汗のたっぷりしみこんだ靴下を頭の上で絞って欲しいか?」


 五十嵐・浜田・大島(((ひ、酷い!!))お)


 流石に見かねた、浜田が止めに入る。


 浜田「山さん、流石にそれは可哀想というか、人としてやっちゃいけないよ」

 山崎「こいつは死んでるから人じゃない。人じゃないから問題ない」

 幽霊星人「い、生きてま……」


 山崎の眼光が鋭く光った。


 大島「まぁまぁもちつくお。ここは俺に任せるお」

 浜田「大島?」

 大島「平和的にかつ、穏便にここは話でけりをつけるお」

 幽霊星人「あぁ、地球人にも優しい方は居るんですね……」


 幽霊星人が羨望のまなざしを大島に送る。大島はいつに無くさわやかに笑っていた。


 大島「山崎、こいつ借りるお」


 そういって大島は幽霊星人を森の奥へと引っ張っていく。


 浜田「へ〜ちょ、山さん」

 五十嵐「なに? なっちゃん」

 浜田「今さっき大島の奴、笑いながら「たっぷり聞かせてやる」ってつぶやいたんですけど」

 五十嵐「……」

 山崎「……」



 しばらくして、幽霊星人の悲鳴が木霊した。



 浜田「やっぱり、怪談ですかね」

 山崎「……」

 五十嵐「……」



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



 一時間後



 大島「終わったお」


 そういって雑巾かすのようにしおれてしまった幽霊星人を片手に、大島が森から帰ってきた。

 右手に幽霊星人、左手には謎の液体で満たされた一升瓶。


 浜田「大島……」

 大島「ん? なんだお?」

 浜田「その、一升瓶の中身何?」



 大島「オドカシルフィンだお」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ